省力化需要でタイ市場を拡大へ ロボット・テクニカルセンター開設

「NACHI(ナチ)」ブランドの工具や工作機械、ロボットを提供する不二越では、このところロボットの生産と販売に力を入れている。その背景には中国やタイなどで労働コストが上昇した上、少子高齢化から人手不足が深刻化しつつある現状で、これに対応できる省力化対策としてロボットの導入が進むと見ていることがあげられる。不二越のロボット生産は日本の富山県にある本社工場の他、中国・江蘇省の那智不二越(江蘇)精密機械で行われており、中国のロボット工場の拡張も決まっている。不二越ではさらにロボットの国際市場を拡大する戦略の一環として、中国やタイをはじめ、米国、台湾などでロボットの展示、実演などを行うロボット・テクニカルセンターを相次ぎオープンしている。タイ法人のナチテクノロジータイランド(以下、NTTC)でも今年7月にロボット・テクニカルセンターをバンコクにオープンした。タイのロボット事業を統括するNTTCの寶島章(たからじま・あきら)副社長にタイの事業の現状と今後の展開などについて聞いた。

常時14台のロボットを展示 センター開設で市場喚起狙う

NTTCは7月7日、バンコクに初のロボット・テクニカルセンターをオープンした。開会式にはタイ政府BOI(投資委員会)の長官も出席した。このロボット・テクニカルセンターには日本人が3人いる他、タイ人のサービスエンジニアを含む約20名が所属している。アソーク通り、大きなベンジャキティ公園の向かいのオーシャンタワーにあり、1階の約400平方メートルにロボット実演を行うショールームとロボット教育を実施するロボットスクール機能を有している。エカマイにあるNTTCのバンコク事務所には、軸受、工具、油圧、工作機械、サーモテックの営業員が席を置いており、寶島氏は両方の事務所を日々往復しながら業務をこなしている。

ロボット・テクニカルセンターをタイにも作るという計画は、本社の方針に基づき2016年の年初に始まり、その年に現在の場所に決めた。「ビデオやカタログを見せるだけの営業では顧客がロボットの稼働状態のイメージを持っていただくことが難しい。やはり実機とその実演を見てもらい、ロボットを感じていただくことが最も大切」と寶島氏は考える。

ロボット・テクニカルセンターでは計14台のロボットを展示している。主に自動車組立ラインに導入される溶接ロボット、スポット溶接ロボットがそれぞれ1台の他、パレタイジング(食品などをパレットの上に積み上げていくロボット)、ハンドリング(製品を正確に移動させるロボット)、バリ取り、組み立てで使う小型ロボットなど10台以上を展示。2台の金属プレス作業を投入から取り出しまで、3台の小型ロボットがこなすシステムとしても展示している。ロボット・テクニカルセンターでは24時間対応の顧客サービスを標ぼうしており、夜中でも各工場で稼働中のロボットが問題を起こしたら、サービスエンジニアが駆けつける体制を取っている。

ロボットスクールもセンター内で毎週実施されている。既にナチのロボットを導入した企業の社員を対象として、同社のタイ人サービスエンジニアが無料で行っている。2018年中には一般向けロボットスクールも同所で始めたいと寶島氏は考えている。社会人の他に技術系の大学生なども受け入れるもので今後、応募方法などを詰めていくが、1クラス6名ほどを想定している。「タイの若者がロボットに関心を持ち、タイ国発展のための自動化を推進する役目を担って欲しい。そしてロボット市場全体を刺激することができれば」(同)と構想する。

寶島氏は「溶接を中心とした自動車組み立て工場向けは今後も重要だが、ロボット使用が大きく伸びるのはこれまでロボットを使ったことがなかった顧客、すなわちタイのローカル企業だと考えています。それらの企業にどのようにうまくロボット導入を提案できるかが我々のテーマ」と説明する。

ロボット拡販で追い風が吹くタイ METALEXでは新製品をアピール

寶島氏は不二越では長くロボットに組み込むソフトウエア開発に従事してきた。2002年から2007年までは米国に駐在。デトロイトのナチロボットシステムズで開発に取り組み、富山工場に戻った後、2014年8月から現在までタイに赴任中でロボット営業を中心に活動している。

タイ政府では今、国家戦略としてタイが陥りつつある中所得国の罠から抜け出し、2036年までに高所得の先進国入りを目指す「タイランド4.0」に取り組んでいる。タイランド4.0の一環としてEEC(東部経済回廊) 開発を進める3県の一つであるラヨーン県に不二越のタイ工場がある。EECでは次世代自動車、航空宇宙、スマート・エレクトロニクス、ロボットなどのオートメーションなど10の産業を重点的に育成していく方針。タイの中小企業がロボットなどを導入して自動化を図る場合には、政府が税制恩典などで支援する方針も発表されるなど、不二越にとってタイでロボットを拡販できる環境が向上してきた。寶島氏によればタイの現在のロボット市場は年3,000台程で内2,000台がロボット形状をしたタイプ、残る1,000台は水平移動などロボットのような働きをする自動機器という。「ロボットはナチと言われるまでに認知度を上げていきたい」と寶島氏は意気込む。

11月22日から25日までバンコク国際貿易展示場(BITEC)で開催されるASEAN最大の金属加工関係国際見本市「METALEX」に今年も出展する。今回は6軸のハンドリング・ロボットの新製品である「MZ12」をPRする。同機は幅広いニーズに応えられる汎用機で、ティア2、ティア3での機械加工向けを期待している。ハンドリング・ロボットではこれまでロボットのアームが持つ重量は7キロクラスが得意だったが、今回は10~20キロが持てるタイプを開発した。「MZ12」は日本でも10月に発表したばかり。他に、ラインでない組み立て用のセルシステム、ハンドリングセルシステムなども展示する。

バンコクで開催される各国際産業見本市を取材すると、まるで中国の展示会かと思えるほどに中国企業の出展が急増している。中国企業が展示している各種機械、部品などについて同業の日本人エンジニアに評価を聞いたところ、「中国製の品質は間違いなく毎年上がってきている」と口をそろえた。中国からはローカルのロボットメーカーも3、4社が、数年前から6軸ロボットなどを出展している。昨年は中国の大手家電メーカーである美的集団がドイツの有力産業用ロボットメーカーであるKUKAを買収した。長年に渡りロボット開発に取り組んできた寶島氏は「中国だけでなくタイでもローカルで6軸のロボットも作るところが出てきています。人件費が大幅に上昇した中国では、さらに多くのロボットメーカーが出てくると思います。KUKAの技術が中国の他のロボットメーカーに広がるかも知れません。展示会で中国製ロボットの動きなどを見ても、品質を毎年上げてきていると感じています。今後3年から5年の間にさらに追い上げてくるでしょうから、我々もうかうかしてはおれません」(同)と気を引き締める。

それでも寶島氏は「ロボット内部の駆動部などの品質までが中国に追いつかれる時代がすぐに来るとは思えない。我々とすれば、より早く、より正確に、より使いやすくの3つのテーマに沿ったロボット開発に今後も力を入れて、他国のロボットに負けない位置に居続けたい」と張り切っている。

不二越は1999年12月にタイの東部、ラヨーン県のロジャナ工業団地にNTTCを設立、2000年4月からラジアル玉軸受のノックダウン生産を開始した。2003年1月にはバンコクに営業事務所を設立している。不二越では中国でもロボットを生産しているが、タイで販売しているロボットはすべて富山工場で生産されたもの。2008年にラヨーン県の工場の隣接地にASEANビジネスセンターを開設し、不二越が製造している工具、工作機械、ロボットなどを展示して実演も行っており、ロボット・テクニカルセンター開設後も継続する。

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