タカハシ社長の南国奮闘録
第104話 変化のとき
日本でコロナの第一波の影響が出始めたのはゴールデンウイーク前だった。接待や業界の集まりなどで毎日のように外食していた私も自宅で過ごす時間が増え、朝昼晩の三食を家族と共に食べるようになった。娘たちは近い将来、仕事の都合で家を離れることが決まっていた。だからタイミングとしては今しかない、神様からいただいたありがたいチャンスだ。最初は戸惑いや違和感もあったが、テラスをDIYしたり、ダイエット運動をしたり、楽しみを作って過ごした。時間はたくさんあったので、自然と仕事に対する思いや将来の事、今の仕事の状況などが食卓の話題となった。 家内と長女が営む会社『テクニアジャパン』の話もたくさんした。セミナー支援を行うこの会社はコロナの影響をダイレクトに受けて、ZOOMを使用したリモートセミナーを余儀なくされた。ところが実際にやってみると画質の悪さ、声の聞きづらさなど様々な改善点が見受けられた。ノートパソコンをそのまま使うと見降ろす感じがして、セミナー講師の印象も悪くしていた。何とかこなすことはできたが、今後これを続けるのは厳しいと感じた。 ちょうどその頃、海外製品を輸入販売している友人からリモートワークグッズの制作依頼を受けた。日本国内で販売するには同じものではなく改良が必要だった。早速テクニアの技術部のメンバーを集めて話を持ち掛けたが、板金溶接になれていないことや、今の業務がいっぱいで時間がとれず、頑張っても土日に集まって研究する同好会レベルでしか対応できないことが判明した。 何とか友人の力になりたいと考えていた私は、家族にこのことを話した。すると、今後はリモートワークの必要性が高まり、セミナー講師の必需品になるから何とかやってみようということになり、一大プロジェクトとして次女も加わり家内工業チームが結成された。とてもうれしかった。今まで開発を自分一人で手掛けて上手くいった試しがなかった。協力体制を得られず独りよがりになっていたからだ。 思いはどんどん膨らんだ。治工具の設計製造を手掛ける友人に話すと、その会社の得意分野とのことで、1週間ほどで試作品を作ってくれた。その試作初号機を、依頼してくれた友人に見てもらった。そこから試行錯誤を重ね、5つ目の試作が出来上がるころにはとても満足がいくものが完成した。 次はマーケティングだ。いつもここで躓くのだが、今はクラウドファンディングという仕組みがある。そこにこの商品を出展することを決め、トライに必要なブランド名やロゴのデザインを募集して、フリーランスの方々に依頼した。そうして決まったブランド名はmy room studio(略してマイスタ)。自室をスタジオに大変身させテレワークのクオリティーを上げることを目的としている。 このようなご縁も、この短期間で万全の態勢で新しいことにチャレンジできたのも、コロナショックという特殊な環境のおかげかもしれない。今までと違う生活様式、今までと違う人とのつながり、変化しようとしていることを肌で感じた。 今までと違うニーズに移行している今だからこそ前に進める。今起きている大きな出来事も必然であり、新しい価値観に生まれ変わる時代の流れなのだろう。風が良き方向に吹いているように感じる今だからこそ、テクニアグループは帆を命一杯広げて邁進し、この難局を乗り越えていきたい。
20年9月8日掲載
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