タイ版 会計・税務・法務
【第114回】 租税条約と恒久的施設(PE)について(その1)
Q:弊社は建設会社です。グループ会社がフィリピンで建設工事を受注したことに伴い、タイから建設管理のための監督者を派遣する予定なのですが、 工事代金にかかる税金の留意点について教えてください。
A:ちょうど、タイとフィリピン間の租税条約が改訂され、2019年1月から発効します。その中で恒久的施設(Permanent Establishment : PE)の定義に変更が加えられたこともあり、租税条約とPEの概論について説明させていただければと思います。
まず、租税条約を結んでいる国の間における事業所得への課税については、一方の国にある会社が得た所得について、もう一方の国が課税できるのは、その会社が、もう一方の国においてPEを保有している場合に限ります。今回の設例に即しますと、タイにある建設会社がフィリピンで得た収益について、フィリピンにおいてPEがあると認定された場合にのみ、当該収益へのフィリピンの課税が可能となります。
さて、このPEについての租税条約の規定ですが、実は租税条約ごとに微妙に異なっています。また、多くの租税条約はOECDで作られた、いわゆる“OECDモデル”租税条約をもとにしている場合が多いのですが、このOECEモデル租税条約自体も、時代背景から色々と変化してきており、近年ではこの稿でも取り上げさせていただいた、BEPSプロジェクトの影響を受け、その一部のPE規定も変化してきております(この点は後述させていただきます)。
PEに関する規定については、多くの租税条約はその第5条(OECDモデル租税条約、日タイ租税条約、タイフィリピン租税条約等)で規定しており、その第一項のPEの「この条約の適用上、『恒久的施設』とは、『事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っている場所をいう』」という定義自体は、どの租税条約でも共通です。ただ、この原則的定義の範囲が漠然としているため、第二項以降に注釈的文言が付け加えられているのですが、その部分で各国の税制や歴史、改訂の時期が反映され、租税条約ごとに微妙に規定が異なってきており、また、今回のタイフィリピン租税条約改訂でも改訂されています。
第二項は、PEが例示されており典型的な企業活動の形態が挙げられています。モデル条約では、以下の6つが挙げられています。(a)事業の管理の場所、(b)支店、(c)事務所、(d)工場、(e)作業場、(f)鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場その他天然資源を採取する場所。一方、日タイ租税条約ではこれに農場・栽培場が加わってくる他、タイフィリピン租税条約では、さらに建設PEやコンサルティングPEと呼ばれるPE規定も、この第二項で規定されています。ただ、第二項は例示規定であって厳密にはPEの範囲を制限するものではなく、本来、PEの範囲を制限するのは第三項以下であることから、個人的には建設PEやコンサルティングPEについては、次の第三項で規定すべきであるのではと考えます。
その三項ですが、モデル条約ではいわゆる建設PEについて“建築工事現場若しくは建設、据付けの工事は、6カ月を超える期間存続する場合にのみ、「恒久的施設」とする”としており、PE規定の例外として6カ月以下の工事現場を除外しております。(以下次号へ)
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
著者プロフィール
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
2018年11月号