タイ版 会計・税務・法務
【第115回】 租税条約と恒久的施設(PE)について(その2)
Q:弊社は建設会社で、グループ会社がフィリピンで建設工事を受注したことに伴い、タイから建設管理のための監督者を派遣する予定なのですが、 工事代金にかかる税金の留意点について教えてください。
A:前回に続き、租税条約とPE、特に最近改定されたタイとフィリピン間の租税条約改定を中心に、考察を進めさせていただきます。
前回は、建設PEと呼ばれる、“建築工事現場若しくは建設、据付けの工事は、6カ月を超える期間存続する場合にのみ、「恒久的施設」とする”というモデル条約の規定(5条3項)のところまで解説させていただきました。前回、少し触れさせていただいた通り、タイフィリピン租税条約では、この建設PEは5条2項の例示項目の中に入っており、また、今回の改定で5条2項例示項目が、以下の通りPEとされると変更を受けました。
1)建設関連PEについては、監督業務のみも含めて3カ月を超えるもの(改定前:建設工事については6カ月、機械設置関連は3カ月)、
2)コンサルティングサービスについては、連続する12カ月のうち6カ月(同:183日という規定のみ)。
この5条2項の変更は、建設・機械設置関連の業務について統合をしたものであり、また、コンサルティングサービスについては、連続するサービスか、年度かを問わず、12カ月以内に6カ月以上サービスを行った場合はPEとみなされる点を明確化したものといえるでしょう。
フィリピンはプラントエンジニアが多く、こうしたエンジニアをタイのプラント建設等に招聘する場合や、逆にご質問のケースのように工事をフィリピンで行う場合、この変更は影響があると考えられます。また、コンサルティングサービスについても、タイのIHQ等からフィリピンの関連会社に人を派遣してサービスを提供する際、合計半年以上の派遣が発生するような場合は、注意が必要です。
またPEとみなされないものを規定した5条3項も以下のとおり変更を受けております。
1) PEとみなされない倉庫関連業務から配送(Delivery)という文言を削除、
2)たとえ一つ一つの業務がPEとみなされなくても、全体として補助的・準備的業務とみなされない場合にはPEとして認定されること。
この2つの変更については、BEPSの最近の動向が反映されているのではと考えます。BEPSに関するOECDのレポートの中では、オンライン通販会社におけるPEに関する事例が挙げられていますが、それは以下のようなものです。
1)非居住者A社はB国において、法人を有さないものの、倉庫をレンタルし当該倉庫の運営のため、人員を使っている。A社はB国顧客に対して、当該倉庫から配送を行なっている。
2)非居住者A社はB国に情報収集拠点Cを設けて、B国の顧客情報をA社に伝えている。
タイフィリピン租税条約5条3項における改正を行なっていない租税条約の場合には、1)、2)の活動について、1)は倉庫・配送拠点であり、2)は情報収集拠点であることから、PE課税を行うことは困難であるとも言えました。また、このような租税条約の抜け穴を使って、多国籍企業が業務を分解してPE課税を回避してきたという経緯もあります。
今回のタイ・フィリピン租税条約の改正は、フィリピンと取引がある企業はもちろん、今後の他の租税条約改正の方向性を示すものといえましょう。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
著者プロフィール
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
2018年12月号