泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第26回 『TNIの課題と日系企業に期待すること』

タイでものづくり教育を進める私ども泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回は、「TNIの課題と日系企業に期待すること」をクリサダー学長に語ってもらいます。

TNIの課題と工夫と産学連携

○ものづくり教育でPBL (課題解決型学習) や五現主義を取り入れるなど、タイで革新的なやり方を進めていますが(本誌128129号ご参照)、TNIでカイゼン的な工夫はいかがですか。


クリサダー(以下、K):学生の日本語指導は、個別指導や日本人との対話の機会を設けるなどの努力をしていますが、日本語はなかなか上達しません。TNIではこれまで、ごみの区分けなど、日本方式を取り入れ、校舎をきれいにするなどの努力をしてきましたが、普段から日本語を使う環境・雰囲気づくりが必要で、学内で日本語を話す環境づくりを考えなければと思っています。そして、石井米雄京大名誉教授が来訪の折り、アドバイスいただいた、技術者用に300の単語を応用して話すやり方のようないかに効率よく日本語を教え学ぶ方法を考えたいと思っています。

また、産学連携という意味でも、日系企業、卒業生と協力・連携し、インターンシップ、研究開発など考えていかねばと思っています。企業の方の特別講義・講演や、逆に日系企業の方への社会講座や産業サービスなどもこれからの課題です。

日系企業に期待すること 

○日系企業に期待したいことは、何でしょうか?

K大学にとって日系企業は、卒業生の就職先としても、またインターンシップで技術や社会人になる教育を教えていただくことでも重要です。また日本人学生のインターンシップ協力も増えていまして、お問い合わせいただければと思っています。日本の中小企業も、例えば世界に1つのオンリーワンというものを持っていて、学ぶことが多く、相互協力が重要と考えています。

また、タイの大学では、政府ローンの奨学金を利用する家庭が多いのですが、TNIでは地方から、また経済的に厳しい家庭から優秀な人に入ってもらい、学生レベルの底上げをすることを考えています。全学生の5%を対象にTNI奨学金を提供するようにしています。これらの学生をサポートするためにTNI奨学金を充実する必要があり、日系企業に就職する希望の学生を重視する制度も考えたいと思っています。ご協力をお願いします。

TNI生には日系企業の中核人材になってほしい

TNI学生について昨年インタビュー調査をしましたが、企業はやる気、専門能力、コミュニケーション力などを期待しています。

KTNI卒業生には、日系企業で期に働いて日本企業の良さを知ってもらいたいと思っています。日系企業の良いところは長期的で、将来まで面倒を見るところです。一般のタイ学生は、まだ若いのか、日系企業はきつい仕事で、給料もそれほどでなく、タイ・ローカルや欧米系の仕事を希望というイメージがありますが、TNI生には将来を考えて長期的に考えるよう勧めています。

TNI生は、相対的に転職数は少ないのですが、卒業生には、日系企業の中核人材になってほしいと願っています。第1期生ですぐにベンチャービジネスで成功した例もありますが、校友会などを充実したいと思っています。

今後の課題など

○これまででやりたくてまだやれていない課題などは、ありますか?
KTNIは設立8年目となり、草創期から安定軌道状態にする必要があります。次の6つが課題です。

  1. 企業ニーズを反映し、学部学科・大学院課程を増設、今では19課程になりました。今後も企業ニーズに応える予定です。
  2. AEC(アセアン経済共同体)2015など、グローバル化に対応した語学(日・英)の充実
  3. 奨学金システムで資質の高い入学生の増加
  4. 卒業生の就職(学生・会社への相談充実)
  5. 社会人教育・産業サービス
  6. 研究・開発への取り組み

特に、まだ中途段階なのは、産学連携面です。これまで会社のニーズに合わせてインターンシップで産学協力をさせていただき、TNIの特長である専門力や語学・コミュニケーション力に加えて、会社に適応する、カイゼンするなどの組織力ある学生の育成に力を注いできましたが、今後、研究・サービス面で、会社の問題解決に協力し、困ったことを一緒に研究したいと思っています。例えば、金型の社会人教育や工場との共同開発ですが、教員がまだまだ不足し、45を超える日本の提携大学から協力いただき、教員の能力向上にも努めています。

日本は、人・モノ・カネがあり、それを良い意味で積極活用したい。つまりタイの人材で、日本のこれらの資源を使わせていただく案です。例えば、タイに合う研究テーマに関し、これまでのガソリン燃料に対しバイオ代替する、日本-タイの共同研究です。ブラジルのサトウキビのように、タイでもパームオイル、サトウキビやタピオカなどを使って車の燃料を検討させていただきたいと思っています。

聞き手・編集:吉原秀男(Yoshihara Hideo) 泰日工業大学(TNI) 学長顧問

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