タイ版 会計・税務・法務

【第110回】 タイにおける仮想通貨取引について

Q:日本では仮想通貨関連で、最近色々とニュースが出てきています。タイにおける仮想通貨についての規制等について教えてください。

A:ご存知のとおり、仮想通貨については現在の中央銀行が管理する通貨に取って代わるものとして注目を浴びていると同時に、それに対する投機熱や様々な事件もあって、各国でもどのような形で規制を行うのかについて、現在議論が進んでいるところかと思います。
そうした中、タイにおいては今年に入って基本的な部分-法的規制と税務面での取り扱いについてーで進展がありましたので、今回はその状況について、簡単に解説させていただきます。
まず、法律面では仮想通貨(*日本語では“仮想通貨”とひとくくりにされていますが、英語では大きく分けて“Cryptocurrency=暗号通貨”と“Digital Token=電子的証票・電子的引換券等と訳されています)に関して、財務省とSEC(証券取引委員会)より以下のような通達が発行されました。内容は大きく4つの項目に別れており、

1)規制対象となる仮想通貨についての定義:いわゆる CryptocurrencyとDigital Tokenの定義を行なっており、これらを“Digital Asset”(電子資産)と呼んでいます。

2)規制の対象となる行為:① Digital Tokenによる一般人からの資金調達(いわゆるICO)、②Digital Assetのa)交換、b)ブローカー(取次)業務、c)ディーラー(自己勘定を保有して売買を行う)業務

3)違反した場合の罰則

4)以前から対象となる行為を行なっていた場合の経過処置 となっています。

この通達は、タイにおける仮想通貨規制の第一歩となるものですが、他国でみられる規制のように仮想通貨の使用を完全に否定したものではなく、あくまでSECの管轄下で監視を行おうとしている点が注目されます。
次に税務面での規定ですが、通達(Royal Decree on a Digital Asset Business, B.E. 2561. Royal Decree No. 19 )においてDigital Assetの取引から発生した収益について、税法第40条(4)に追加する形で、以下のように課税することを規定しています。

―Digital Tokenの保有や生成から発生した所得もしくはその他の利得(いわゆる配当所得に相当する扱いかと考えます)

―CryptocurrencyやDigital Tokenの移転から発生した所得で投資原価を超える部分(いわゆる譲渡所得に相当する扱いかと考えます)

また、本税務通達では、上記の収益は源泉徴収税15%の対象とされておりますので、支払人は当該源泉徴収義務が発生します。

 

SECは、今回の規定に沿った形で、仮想通貨取扱業者の認定をすでに開始しており、タイでの仮想通貨取引は一定の枠組みができつつあるかと思われます。ただ、仮想通貨はまだまだ発展途上の技術・システムでもあり、タイとして仮想通貨取引を許容するのであれば、投資家保護と公正な市場形成のために継続的に規制を整備していくことが必要かと考えます。

 

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk

 

2018年7月

 

  • Facebook
  • twitter
  • line

関連記事