泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
ものづくりの教育現場から第32回 『吉田祐作氏に聞く TNI工学部と日系企業』
タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回は、工学部でJICAシニア・ボランティアとして、主に教員養成と日系企業との産学連携に携わる吉田祐作氏に、TNI工学部の特徴、TNI生の魅力と日系企業、日本の協力について語ってもらいます。
TNI工学部を簡単に紹介してください。
吉村(以下、Y):工学部の教員は45人で、自動車工学、生産工学、コンピュータ工学、経営・ロジスティックス工学、電気電子工学の5学科を担当しています。博士号を13人が持ち、その半分以上は日本留学経験者です。このように日本での留学経験や日本企業での就業経験のある若手教員に恵まれており、活力ある活動が期待できます。日本のものづくり教育を手本にしており、座学中心の教育からものづくり体験を含めた比較的企業活動とリンクしやすい教育を心掛けています。企業サイドからのものづくり教育に結びつくノウハウや、ハード面での一層のご支援をお願いしたいと思っています。また、私を含め、積極的にTNIサイドからのアプローチも行っていきたいと思っています。元日本留学の先生も、できれば日本語で会話する機会をなるべく多くして、日本語を忘れないようにして欲しいと願っています。
特に日系企業の方に訴えたい、TNI生の魅力は何ですか?
Y:コミュニケーション、語学、専門能力の観点から、紹介したいと思います。まず企業活動は、コミュニケーションで成り立っています。日系企業で、自分の体験・主張をいかに理解してもらうか、コミュニケーションをうまく図れるかは、企業に就職した場合、特に大事です。
また語学力のある学生は、英語、日本語ともにある程度できる学生が多いので、活動の場が多くなります。今年末のAEC設立で、共通言語として英語の重要性が増していますが、日系企業で日本語の会話力があれば、さらに有り難いようです。日本語が少しでも話せると会話の中身もそれなりに濃くなります。日本語能力向上のためには、日本への留学や日系企業でのインターンシップの経験がきっかけとなり、その後の会話力の向上につながるケースが多いので、今後ともご支援をお願いします。
専門能力の点では、自動車工学や生産工学専攻の学生は、CNCやマシニングセンターなどの工作機械の取り扱いやCAD操作を経験しているので、就職してから、物怖じせずに抵抗なくスムースに仕事に入れるケースが多いようです。
TNIの今後の方向と日本の協力についてはいかがですか?
Y:サマリーとして私の行動の心得的なものに重なりますが、5つあります。まず教員の質向上と実践力の持続、学生の日本志向と日系企業との連携・持続強化が重要で、今後の私の活動もこれを支援したいと思っています。第2は、教員と日本の大学・企業とのつながりと継続で、そのためのマッチング機会をなるべくつくるようにします。
第3は、日本語が企業で活用できるようになるには、私のこれまでの経験から、7年ぐらいの日本での留学・就職経験が必要と思っています。そのために、日本への橋渡しになるような活動が重要です。第4に、日本語ができる教員には、日本語を忘れないように、研究・開発等の課題を設定し、日系企業とコンタクトをとれるようにすることが必要です。
第5は、研究室制度を充実させて、日本の大学・日系企業との連携を強化することが大事で、そのためには最新情報の入手・交換や研究機器の支援が必要です。泰日工業大学のように、日本のものづくりや日本企業文化を理解する人材を育成することは、日本企業のグローバル展開にとって重要であり、皆さんのご協力・ご支援をお願いする次第です。