泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第42回 『日本企業におけるTNI生評価 2』
タイでものづくり教育を進める泰日工業大学TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回は、第40号に続き日系企業で働くTNI生と企業評価に焦点を当て、YN2-TECH社とタイ東レ社の採用・人材育成をご紹介します。(本稿は、2015年6月にTNIで実施したJセミナーの発表事例を基にしたもので、文責は筆者にあります)
YN2-TECH社TNI出身社員の具体例
TNI卒業生は、現在5名〔ナイス君(技術営業)BJ(日本語経営学専攻)、ビルさん(海外担当営業・デザイン営業)BJ、よっちゃん(通訳・翻訳・エンジニア)BJ、ワーン君(研修生・設計)AE(自動車工学)、ジーン君(研修生・設計)AE〕(その後1名増)いるが、今回はよっちゃん を紹介したい。彼は、昨年HIDA(海外産業人材育成協会)の支援で、日本で技術研修を受けた。技術はもちろん、N1(日本語検定1級)の資格を持ち、その日本語も上達した。
よっちゃんのキャラクター:口数が多い方ではないが、まじめで確実、嘘は絶対につかない。漢字が得意、日本語検定1級、いつか通訳・翻訳の仕事をやりたい。電気よりメカの部分が好き、オタク・アニメ好き、ラーメン好き、恥ずかしがり屋→現在プレッシャー対応強化中。
よっちゃんの売り出し方法:研修で得た機械の知識と日本語を生かすために、さらに工業用語、公差の考え方・機械操作方法・NC言語などをマスターし、他社との差別化を図っていく。また安全管理シート・取扱説明書・品質管理指標など、重要度の高い翻訳をトレーニング→これをYN2のお客様への特別な付加価値として事業化した。操作説明も日本人エンジニアからタイ人エンジニアへスムーズな伝達が可能。→YN2のよっちゃん にしかできない事で、本人のやる気、稼ぐ気、根性の向上につながった。
プロモーション:「工業通訳・翻訳承っております-取扱説明書・安全管理書類・カタログ等」まとめ:タレントを担う管理者としての考え方
「キャラクターはシャイだけど、まじめさが伝わる。マイペンライではなく、分からないときは学ぶ」。あとは、「人事を尽くして天命を待つ」。マネジャーとして私がやるべきことで、私しかできないことは、人事として「レクリェーション、面談、食事→各タレントの長所・短所の理解→舞台・出演機会の模索」で、→イベントの立ち上げ→新たなつながり→反省会の実施→そして“自分達事”になるまで待ち続ける。
この欠点は時間がかかることかもしれない?が、結果的には経費・時間の節約になる良い循環が生まれてくる。また、荀子の「どんな小さなことでもやらなければ成功はしない」を信条にしている。
よっちゃん の一言:昨年は、HIDAで日本研修に行き、翻訳・通訳力、機械のメンテナンスなど向上できました。社会人2年目で学生ではないことを意識。TNIで日本語・経営学(BJ)を専攻し、日本語は客に対する言葉や会計などを学びました。会社でさらに成長したいと思っています。工業通訳もやりたいと思っています。
タイ東レグループにおけるTNI生採用と活躍の状況 堀野 泰弘・東レタイランド社 人事総務アドバイザー
.会社概要:タイ東レは、1963年タイ東レ・テクスタイル設立以来、2013年には操業50周年を迎え、記念式典を開催。事業領域は図の通りの内容で、東レタイランド(TTH) 統括の下、繊維・織物、プラスチック、炭素繊維、貿易の8社からなり、生産基地から新素材の発信元へと事業展開している。タイ東レ・シンセティクス社(TTS) にテクニカルセンターを設置、ASEAN・インド地区における材料開発の本部として、お客様ならびにタイを中心とした地域の研究開発機関との協力や共同開発を推進している。
.TNI生の採用と活躍
2-1.TNI生を採用する目的
“Made in Toray”という東レの言葉がある。 「世界中どこで生産しても東レグループの品質は変わらない」という理念で、そのためには世界中で高品質な製品を作り出していくための組織/人材が必要。図のTNIの教育課程の特徴と同じ考えで、タイで日本的ものづくり教育を身に付けた学生をさらに育成したいと思っている。
2-2.TNI生の採用実績
東レグループでは、2011年の第1期卒業生から毎年継続的に採用、合計17人採用し、9人が在職。3学科から採用(表参照)。TNI生の定量的な評価はしていないが、以下に紹介するように頑張ってくれている社員が多い。
<卒年別・学科別採用実績>
学部 | 学科 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | Total | ||||||
情報技術学部 | IT | 2 | (1) | 2 | (1) | ||||||||
経営学部 | IM | 6 | (1) | 1 | (1) | 1 | (1) | 1 | (1) | 1 | (1) | 10 | (5) |
BJ | 2 | 1 | (1) | 2 | (2) | 5 | (3) | ||||||
合計 | 8 | (2) | 3 | (1) | 2 | (2) | 3 | (3) | 1 | (1) | 17 | (9) |
学部 | 学科 | 総務 | 情報システム | 製造 | 品質保証 | 営業 | 合計 | ||||||
情報技術学部 | IT | 2 | (1) | 2 | (1) | ||||||||
経営学部 | IM | 2 | (1) | 6 | (3) | 1 | 1 | (1) | 10 | (5) | |||
BJ | 2 | (1) | 1 | (1) | 2 | (1) | 5 | (3) | |||||
合計 | 4 | (2) | 2 | (1) | 7 | (4) | 1 | 3 | (2) | 17 | (9) |
2人のTNI生の活躍事例
①シリコンさん(女性):ラッキーテクス社情報システム部勤務、2011年度情報技術学科(IT)卒業 。
1.現在の職務:販売、生産と在庫システムの実施と維持、アプリケーションシステムのデイリー・バックアップ管理、営業責任者へのデイリー報告書作成、ユーザーが問題にあった時の電話対応/コンピュータ・リモートアクセス支援、ユーザーの要求に応じマスタデータを維持(追加、更新、削除)、新しいプログラムを開発/試験/デバッグ、新しいプログラムを実行するユーザーマニュアルの準備と訓練
2.今後の予定: 大規模システム開発プロジェクトの会議に参加してもらい、プロジェクト管理を教えている。
②ジトントン君:タイ東レ・シンセティックス社(TTS)物流課勤務、2014年度工業経営学科(IM)卒業。第4期卒業生。
業務内容:化合物原料の在庫管理、倉庫管理 コーディネーション(購買、生産、会計)、安全と環境。下記の3つの取り組みで、ベストパフォーマンス!の評価を得た。
(1)カイゼンの取り組み:最低在庫のミスと対策、原材料受入と工程供給、在庫量計算方法。
(2)理論から実務への取り組み:5G(5ゲン主義)、5S、Why-Why(なぜなぜ)分析、7つのムダ。
(3)次の目標:災害ゼロの維持、人材の効率改善、倉庫システムの機能を達成、ゼロ在庫エラー、工場モデル。
東レのグローバル人材育成と今後のTNI生の採用と育成
図は、東レのグローバル人材育成方針で、このもとでグローバルに活躍できる人材育成体系を整備してナショナルスタッフを育成している。将来のタイ東レグループを支える人材が育つことで、企業もまた育つ。TNI生も、将来は経営幹部ならびに各機能(営業や生産)の中心となって、タイ国内はもちろんグローバルに活躍してほしいと願っている。(TNI生への期待なども図表を参照)