泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第47回 『TNIの日本語教育』
タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。本稿ではTNIで重視する日本語教育を取り上げます。TNIでは日本語は学生全員が学ばなければならない必修科目です。日本語は第1に日本のものづくりを理解する大きな手がかりであり、カイゼン、ホウレンソウ、5ゲン主義など、単純に他の言語に翻訳できず、その背景、文化環境を理解してもらう必要があります。第2にTNIの主要産学連携相手の日系企業の就職に重要なツールでもあります。本稿では、まず本学で実施する日本語教育一般をお伝えし、次号では、より日本語教育に重点を置く経営学部日本語・経営学科の日本語、学生のコミュニケーション力や日系企業の方へ理解頂きたい点などをご紹介します。
なお本稿は2015年11月にTNIで実施したJセミナーの発表を筆者が要約したものです。Jセミナーは年2回、6月と11月に開催します。ご参加をお待ちしています。
TNIの日本語教育 ガン アーライヤート・當山淳 (TNI語学・教養課程部 日本語講師)
1.TNI日本語コース概要
- TNI日本語コースは、次の2つからなる。
(1) 全学部向け日本語コース《次の(2)を除く》:N4 レベルを目標
(2) 経営学部日本語・経営学専攻の日本語コース:N3 レベルを目標
→大学側は、上記のJLPTのN4・N3レベル合格を目安に職場で基本的な意思疎通ができることを期待。
○参考:JLPT(日本語能力試験)とは?:日本語を母語としない人を対象に日本語能力を測定し、認定するための試験。「聞く」と「読む」技能を重視している。(「話す」「書く」能力を直接測る試験ではない)
N1: 幅広い場面で使われる日本語を理解できる
N2: 日常的な場面で使われる日本語理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解できる
N3: 日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる
N4: 基本的な日本語を理解できる
N5: 基本的な日本語をある程度理解できる
- 大学では、①専門技術力、②語学・コミュニケーション力、③組織力(社会人基礎力と管理基礎力)に力点をおくが、語学・教養課程部では、そのうちの②③を担当する。企業の「日本語、人間関係構築能力、問題解決能力、社会人基礎力、自分を持っている」などの期待に応え、基礎的な日本語力、伝える力、考える力を養成し、コミュニケーション力をつけ、企業に入ってからも継続できるよう、自律学習能力を育成している。
2.全学部向け日本語コース
- 履修時間:3時間/週×15週×5科目= 225時間で、これに選択科目を履修した場合、45時間(1学期)が加わり、 270時間になる。
*参考:N4レベルでは通常300時間が必要で、ちなみに日本の中学校英語は266時間の学習時間。 - カリキュラム作成の背景:学生は工学部など、日本語専攻ではなく、座学、語学学習に慣れていない学生もいる。
- TNIオリジナル教科書:市販の教科書は、日本での使用を目的とし、学習項目(文法・語彙・漢字)が多い。
→「話す」「聞く」力を養成する練習が不足
→タイで日本人と働くときに必要な日本語にフォーカス➡
特徴:口頭コミュニケーション能力養成を目指す、初級段階から、ビジネス場面での使用を意識、タイ人学習者に配慮した説明・学習項目配列、本当に必要な「語彙」「文法」、語学が得意ではない人にもわかりやすい「話す」「聞く」力をつけるアプローチ
テスト・評価:①ペーパーテスト(40%):約半分がリスニングテスト、その他、文法、読み、語彙、漢字
②インタビューテスト(20%):1人5分、日常生活、将来の仕事、一般的なテーマについて日本人教師と話す
③出席、宿題、クイズ、プロジェクト(40%)
授業外の活動:チャットルーム、各種コンテスト(日本語コンテスト・スピーチコンテスト)、各種交流活動(在タイ日本人、在タイ日本人学校、日本の姉妹提携大学など)、スタディーツアー(短期、長期留学)、日本でのコンテスト参加(ロボコン、自動車―学生フォーミュラ)、TNI DAY(学園祭)
筆者:吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問