泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第65回『2018年の抱負』

タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。2018年は、タイも日本と同じく、少子高齢化の影響が表れ、私学は厳しい予想です。大学進学者数は2017年の433,886人から、2018年の417,006人になるとタイ国統計局が予測しています。つまり16,880人の減少になり、特にTNIを含む私学が厳しい状況になると言われています。2018年を迎え、バンディット学長に、TNI10周年の回顧と展望、社会貢献、日本企業との協力、国際協力など2018年の抱負について話してもらいました。

■10年を振り返り、当初の設立目的で、達成できたことと、課題として残ったことをあげてください。 

バンディット・ローッアラヤノン TNI学長

  • 建学の主な目的は2つで、中核産業人材の育成・輩出と研究開発によるタイの産業高度化への貢献です。
  • 前者はものづくりの即戦力になるよう現場を理解し、課題が解決できる産業人材です。昨年8月開学10周年行事を行い、2007年の入学生は433人でしたが、2017年は1,246人で、在学生は4,428人になりました。11月の卒業式では、累計4,555人の卒業生になり、このうち、希望する卒業生は100%就職できており、また進学等を除く大部分は製造業・サービス業に就職し、特に日系企業から高い評価を頂いています。
  • 卒業生は、専門技術だけでなく、日本語・英語の語学コミュニケーション力、さらに産業社会に必要な組織力を身につけています。中でも規律、社会規範遵守やチームワークなどについて、日本とタイの比較からTNIの6つの中核価値として指導している、カイゼン、ものづくりの思想、反省、リスペクト(自他の尊重)、オネスト(誠実)、公益意識は、仕事と生活の質向上に役立っていると卒業生に評価されています。
  • 研究開発については最初の数年間はやや遅れ、また数年前から着実に成長しています。特に中小企業に必要な自動化や人工知能など、産業に応用できるものを中心に手がけて、年間20社ぐらいに協力している現状です。今は教員がまだ若いこと、ロボットや制御機器開発などは資金が必要で、先端技術や基礎調査的なものは時間がかかるなどの課題があります。当面、製造業・サービス業のカイゼン、効率が主で、一方、昨今のデジタル技術の進展に合わせた実証的な産業応用力を中心に考えています。

■次の10年に向けての新たな計画はいかがですか?

  • 昨年の10周年記念時、タイ政府の20年後に先進国になる「タイランド0」ビジョンに合わせて5年計画を発表しました。
  • タイも、日本と同じように少子高齢化になる一方、社会人教育が重要です。EEC(東部経済回廊)など、工場の遠隔地化に伴い、ムック=MOOC=大規模オープンオンラインコースを開発します。いま5S教育を試行中です。また研究開発拠点=COEとして人工知能システム統合センターをスタートしました。スマートAED(自動体外式除細動器)動作環境開発、既存機械をスマートシステムにする、スマートファーミングなど実用化されています。また大学院生が薬の処方箋システムをQRコード化し、病院の待ち時間を効率化する試みを行っています。
  • また製造業とサービス業の両方でデジタル技術を活用する技術移転センターや新たなスタートアップ企業のためのインキュベーションセンターを設置し、コーワーキングスペースを用意します。
  • さらに今年の8月に3つの国際プログラムを開始し、近隣諸国や日本、世界各国の人の学びの場を設けます。デジタル工学(DGE)、データサイエンス・解析学(DSA)、国際ビジネス経営学(IBM)を英語で実施します。今回は日本人を含め、30人の学生に奨学金を提供します。またタイ語で実施する「広報デジタル技術学(DC)」を6月開始します。これらを含めると学部は3学部19課程、大学院は5課程になります。詳細はTNIのウエブで10周年記念誌と大学案内をご参照ください。

■日本の大学、タイ近隣大学との連携状況をご紹介ください。

  • 日本では60機関と、アセアンではラオス国立大学など7機関と交流協定を結んでいます。
  • その内容は、学生の交換留学や教員交流で、日本とは毎年相互に200人以上の学生が短長期留学しています。TNI生は、「日本人の勤勉さや秒単位の新幹線運航に」、日本人学生は、「日系企業インターンシップを含めたタイでの異文化体験に」、それぞれ貴重な経験をし、「今後の人生の良い指針になった」と好評です。

 

■TNI卒業生の日系企業における活躍状況と課題解決に向けての企業や日本政府への提案をお願いします。

  • 卒業生は、第1期生でも30歳前後で、中核産業人材になるにはもう少し時間がかかる一方、インタビューでは、エンジニア、ITスペシャリスト、プログラマー、管理者、社長秘書、通訳、ビジネスアナリスト、企業経営者など出身学部を反映した仕事についています。
  • 日本企業の方には、タイ日文化の違いを考慮し、お互いに共存できるように、また駐在でずっといられる方は限られ、その意味でタイ人の人材育成と登用を考慮してほしいと願っています。
  • 日本政府はビザ緩和などで、タイ日協力をサポートしていただき、さらに産学官連携で、開発・自動化などの技術者育成の「ものづくりエンジニアプログラム」と、日本のインターンシップを支援いただき、学生・関係企業にも大変喜ばれています。
  • 特に政府のODA支援は、JICAなど国対国の支援協力の特質は理解していますが、タイの外務省から、教育省、さらに傘下の国公立大学に支援が流れるのはもっともと思う一方、タイ国では、国の民間支援は限られ、助成金は皆無と言えます。この二国間支援も同様であり、民間企業の活力およびニーズに合った支援が叫ばれる中、むしろ民間ニーズを反映した泰日工業大学をより支援していただきたいと思う次第です
  • 今後少子高齢化で、タイの大学も淘汰が進む中、泰日工業大学のイメージを向上して行きたくご支援をお願いする次第です。

聞き手:吉原秀男(TNI学長顧問)

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