タカハシ社長の南国奮闘録
第88話 小を積んで大となる
新元号「令和」の発表とともにテクニア全体が完全新体制でスタートした。
目的はOA活用による製造業務管理の強化と簡素化、各工場単位での管理業務の強化と自立性の確立、そして納期スケジュール厳守の徹底だ。
テクニアはもともと工作機械の部品を生産する多品種少量短納期を得意とする職人集団の町工場だった。タイに来てもその本質は変わらなかった。
そんなテクニアが量産工場に切り替わっていったきっかけは、進出から3年が経ったころ、先代(父)のゴルフ仲間からの紹介で、タイに生産拠点を立ち上げたばかりのお客様と出会ったことだ。そのお客様の要望に応えるべく、引き寄せられるようにして拠点をお客様の会社から近いピントン工業団地に移し、2010年に本生産が始まった。
それからいろいろなことを乗り越えて、ようやく今年で10年目を迎え、現在は大手メーカーを勇退した方が社長としてテクニアタイの舵をとり、現場の5Sの徹底から管理力、営業力、組織力強化まで、革新的に生まれ変わらせようとしている。
すでに日本から出張で訪問するお客様からは絶賛と期待の声が上がっている。ただ、本当の改革はこれからだ。今後もさらにタイ工場の進化に力を入れなければならない。
日本もタイも新体制になり、新たなステージに進み始めた。独立採算に向けてしっかり結果を出せる組織体制で臨むわけだが ここで一番大切になるのが協力体制である。生産拠点に過剰な技術スタッフは必要ない。しかし、立ち上げ時や生産性向上のための段取り替えには技術的な支援を要する。その際、日本に技術部を集結させてどのくらいスムーズに応援出向・遠隔操作を行えるかが鍵となる。
独立しながらも孤立しないように協力体制を作らなければならない。どれだけ離れていても人的交流の根本はコミュニケーション、人の繋がりだと思う。
人との縁が結ばれ、そこから発展していくかどうかは学歴や利発さ、要領の良さではなく、相手を思いやる心根にかかっている。
同時に、合理的な考えを忘れてはいけない。これには利口さが求められる。こんな時、いつも甘くなりがちな私への戒めとして思い出されるのは二宮尊徳先生の教えだ。
『道徳を忘れた経済は、罪悪である。経済を忘れた道徳は、寝言である』
経営は慈善事業ではない。利益を出し、そのお金を会社発展のために活用して持続的発展を遂げることができて初めて平均的な経営者と言えるだろう。
事業戦略においても、私は先生のこの言葉をよく引用する。
『キュウリを植えればキュウリと別のものが収穫できると思うな。人は自分の植えたものを収穫するのである』
きゅうりを植えてスイカもメロンも桃もできない。事業戦略においても同じく、人に頼り切るだけでは良い経営はできない。だから私は目的目標を定め、ルールを決め、地道にコツコツ肥料と愛情を注いで狙った結果を出そうと思う。
最後に、私が二宮先生の教えで一番好きな文章で締めくくりたい。
『大事をなしとげようと思う者は、まず小さな事を怠らず努めるがよい。それは、小を積んで大となるからである。大体、普通、世間の人は事をしようとして、小事を怠り、でき難いことに頭を悩ましているが、でき易いことを努めない。それで大きなこともできない。大は小を積んで、大となることを知らぬからである』