タイ企業動向

第46回「関心高まるタイ国境貿易」

周辺諸国とタイとを結ぶ国境貿易に新たな動きが広がっている。商務省貿易局によると、 周辺4カ国(マレーシア、ミャンマー、カンボジア、ラオス) との国境を通じた今年

上半期(1月~6月)の貿易額は約5,534億バーツ(約1兆9,000億円)と前年並み。しかし、

貿易当局者は、 主な要因を折からのバーツ高と米中貿易摩擦のあおりとして、「今年下期

から回復し、来年は二桁を超える大きな伸びとなる」と強気のそろばんを弾く。その根拠の中心となっているのが、 マレーシアやミャンマー 、カンボジアなどとの国境で始まつた新たな試みだ。物流各社なども関心を持って見守っている各種施策。どのような動きがあるのかをまとめた。 (在バンコク ジャーナリスト 小堀 晋一)

 

タイ南部最大の都市ハートヤイ(ハジャイ)からほぽ真南に約60キロ。ソンクラー県サダオに国境貿易が盛んな検問所がある。ゲートの向こうはマレーシア北部クダ州プキカユヒタムの街。ここで今年6月下旬から試験的に始まったのがトラックを対象とした24時間体制の通関だ。かつては午前5時から午後11時までとしていたのを一気に6時間も延長した。 運転手と助手の2人に限り物資を積んだ車がいっでも都合の良い時間帯に行き来することができる。

24時間化は両国の商工団体などからの強い要望だった。サダオ〜プキカユヒタム間の検問所は、昨年一年間だけでも約46万台のトラックに約48万台の乗用車やバス、約506万人の観光客が通過するタイ〜マレーシア間屈指の重要な物流ルート。今後の貿易活性化のためにも、避けて通れないのが通関時間の延長だった。マレーシアには天然ゴムや中央清算処理装置(CPU)などの電子部品、自動車部品などが輸出され、タイには電子部品や機械部品などが輸入されている。

ただし、 課題も多い。深夜も通関が可能となると、そのための職員の確保や荷の積み替えなどを行うためのスペース、巨大な照明施設も必要だ。 特にタイ側では食品の検壺を行う保健省食品医薬品委員会(FDA)の職貝が通常業務体制のままで、この24時間化が早くも求められている。 物流各社のシフト体制 の見直しも急務の課題だ。

このため、両国の貿易担当者は会合を繰り 返し、当面の措置として出入国管理担当の職員をタイ側だけで100人体制と倍増するほか、物品検査所への通路をこれまでの4車線から6車線に拡張する案の検討を始めた。試験期間は9月半ばまでとされており、それまでの間に結論を出す方針だ。

一方で、 通関の24時間化をきっかけに両国の商工団体が参加してのビジネスマッチングを提唱する動きも広がっている。プラユット連立政権で副首相兼商務相を務める民主党のチュリン党首が開催に前向きで、タイ側の民間企業の代表者を集めて実施に向けた要請を行った。タイ南部は民主党の強い地盤でもあり、貿易の活性化によって党勢を拡大しようとの目論見も透けて見える。官民挙げてのビジネスマッチングは早ければ10月下旬にも行われる見通しで、タイ側南部5県とマレーシア側北部5州の企業が参加するとみられる。

 

西武一帯で隣国ミャンマーと総延長2,400キロの国境線を持つタイは現在、計8ヶ所で同国との国境貿易を行なっている。統計上の貿易額の最多はカンチャナブリー県バーン・プーナムロン〜カニンダーリ管区ティーキー間にある検問所だが、これはタイがミャンマー東部から輸入している天然ガスを同検問所扱いとして計上しているためだ。それを除けば、 東西経済回廊に位置付けられる北部ターク県メーソート~カイン州ミヤワディ間が最多となる。

この検問所で、タイ側からは機械やセメン卜、化学肥料や化粧品などが輸出されている。 ー方、 ミャンマーからの輸入品は力ニやエビなどの水産物や、玉ねぎ、キャベッ、茶葉、ココナツなどの農産物が多くを占めている。

不作などが原因となって時的にタイで需要が麻まる農水産物の、補充機関的な役割をミャンマーが担っている。

両国政府も同ルートを貿易拡大のための主要路と位置付けており、大型トラックが通行 できる大規模道路の整備などを進めている。また、今年3月には同区間における貨物車両 の相互乗り入れに関する覚書(MOU)を締 結。 1年間の試験措置として、 両国のそれぞ れ100台を上限とするトラックに通行ライセンスを発行し、国境での積み替えなしで走行できる施策を発表した。

相互乗り入れの実施は、 ミャンマー政府の 強い要請で決まった。 同国は国内産の農産物 をタイはもちろんのこと、 タイを経由して周 辺諸国にも輸出する計画を打ち出している。 すでにラオスとベトナム向けの輸出は始まつ ており、 近くマレー シアとも協定を結ぶ方針だ。 マレーシアに向けてはミャンマー産の米や豆類などの輸出が見込まれている。

 

このほか、 東部サケ一オ県ではカンボジア西部バンテメンチェイ州とを結ぶ友好橋が今 年3月に完成。 新たな貿易を担う国境検問所の開通が2022年にも予定される。カンボジアの経済発展に伴い、 同国の農産物の輸人は年々高まりを見せており、タイ政府としても重要視する調達市場の一つ。カンボジア国内 での消費の拡大も見込まれることから、機械 や家電、化粧品などの消費財の輸出も伸ばしたいとしている。

また、カンボジア政府はバンテメンチェイ州ポイペトに整備した国境工業団地にタイに ある日系企業などを呼び込みたい意向だ。 民 間企業が進出すれば、雇用が生まれ地域の発展にもつながる。国境貿易の拡大と合わせて推進してい<方針だ。

  • Facebook
  • twitter
  • line

関連記事