タイ版 会計・税務・法務
第130回 今回のテーマは、 「居住用建物の賃貸借契約規制改正 」についてです。
Q: 2020年4月からタイに赴任予定でコンドミニアムを探しているところなのですが、契約をする際の法律の変更があったと聞いたのですが、どのようなものでしょうか?
A:タイでは、2018年に消費者保護委員会が、賃貸借契約において個人が借り手となる契約に関して、契約上の弱者と考えられる個人賃借人の保護を目的とし関連する法律を整備しました。 その一環として、2018年5月以降、居住用賃貸不動産業は規制対象業種となり、5軒以上の個人用賃貸住宅を運営する業者は個人・法人とも「居住用建物の賃貸借契約規制(通知)」に沿った運営が求められることになりました。 この規制では賃貸契約に関する内容も定めているのですが、2018年の施行後、当該規制があまりに消費者保護に傾いているという家主サイドからの不満もあり、2019年10月に改正が発表され、2020年1月末以降の契約から適用されています。 主たる改正点(賃貸人への制限の緩和等)は、a) 賃貸人の解約要件の緩和、b)賃借人の解約要件の追加、c) 賃貸人の物件への立入権等があります。 まず、a)についてですが、契約の途中解約について、これまでにも家主(賃貸人)の途中解除は借手の家賃不払い等合理的な理由に30日前の通告をもって認められていましたが、今回の改正により、「賃貸物件の平穏な使用を直接に妨げるような行為を 行った場合 」には7日前の通告で、また「公序良俗に反する行為」の場合には、即時解約が可能になりました。 具体的にどのような場合が「平穏な使用を妨げる」もしくは「公序良俗に反する」のかは、今後の運用次第というところもありますが、あまりに騒がしい利用や麻薬パーティーを行った場合等には、この緩和により家主より退去されると考えても良いかと思います。 一方、b)の賃借人からの解約についてですが、30日前の家主への通告と不払いがないことに加えて、「契約期間の半分が経過していること」という条件が付け加わりました。したがって、例えば一年契約をしてしまうと、半年は契約解除ができないことになりますので、注意が必要です。 また、c)については、a)とも関連しますが契約解除後即時の物件への立入や残置物の処分、および、契約期間中であっても他の入居者に影響を及ぼす可能性のある場合には、事前通告なしの立ち入り点検が認められています。 今回の改正の主たる点は、ある意味行き過ぎた家主の権利の制限(賃借人の保護)を調整したものと思われます。昨今は沢山のコンドミニアムが供給されるとともに、投資用として購入され家主となったタイ人も多く、こうした家主が実際に住居賃貸をした際に出てくる居住人からの苦情に対応するという意味もあるかと思います。 また、新しくコンドミニアムを借りられる際には、家主が当該規制の対象となる方なのか、また、賃貸借契約の内容が法律で定められた規定に準拠しているかを確認(タイ語ですので、信頼できるタイ人等に確認いただくのが良いかと思いますが)しておくほうが良いかと考えます。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
2020年3月1日掲載