タカハシ社長の南国奮闘録

第102話 テクニア維新

経営者にとって大きな壁となるのはマインドイノベーションである。マインドイノベーションとは、「昨日まで続いた手法や習慣をまったく新しい視点で打ち破り、発想を転換して革新していく」という意味だ。ピータードラッガーは、企業にとって有効的で最も重要な革新はマインドイノベーションであると指摘した。  企業がマインドイノベーションを行うには大きく二つの方法がある。一つは迅速に実行できる「トップの交代」だ。テクニアの先代は20年前、60歳の若さで一線を退き、32歳の私に事業を託してテクニアを大きく革新した。  今になってわかるが、これが先代にとってのマインドイノベーションだったのだろう。「私の社長人生で最良で最高の決断をした」と晴れ晴れとした顔で言い残したことを覚えている。  もう一つは「社内の意識改革」だ。好況時に社員に意識改革を求めても、危機感のない中では思うようにいかない。しかし、今回のコロナショックのような大きな環境の変化の時には意識改革が浸透しやすい。  歴史が長ければ長いほど組織は硬直化し、社員や役員、社長ですら変化を嫌い、会社の成長は行き詰まる。わが社も全く同じで、頭ではわかっていても、なかなか実行に移せなかった。  社長だけはこうした状態に慣れてはいけない。時代の流れを敏感に察知し、社内全体に新しい風を送り続けることが、革新しやすい会社をつくることに繋がるのだ。わが社では今、「テクニア維新」と名づけて革新を行っている。 以前は各工場に裁量を持たせて工場単位に任せてきた。その結果、工場単位の村組織ができて社員もそれぞれに染まってしまい、他の工場がピンチの時でも支援体制が組めず、社内が分裂状態になっていた。こうした状態を作り上げてきたのは紛れもなく私自身である。  革新の目的は、会社の中身を一新し、町工場から企業へと進化させること。環境の変化に加え、人事を変化させることで変わるための手立てが見えてきた。ある意味、コロナを担いでテクニアを大きく変えるわけだ。  役職者が意見を交わして協議決定を下す中央集権制にして、本社と各工場が連携を強め、情報だけでなく機械やスタッフのコンバートも中央が決定する。人の力量に頼るのではなく、仕組みで会社が動くようにする。幕末に行われた廃藩置県と同じである。  幸いなことにタイ工場の改革はすでに行われており、組織を十分に理解した仕組みで運営できている。あとは日本サイドが連携体制をどこまで作り上げられるかだ。単体でここまで頑張ってきたタイ工場の進化が楽しみである。  私自身も社長業としての役割を学びなおし、社長としてやるべき仕事をこなしていかねばならない。私はカリスマ性のある経営者ではない。だからこそ人に教えを乞うてでも自己を啓発する必要がある。それがテクニアの歴史をつなぎ、次世代に渡していく私自身のマインドイノベーションだ。経営者は孤独だとよく世間で言われるが、その孤独を本当の意味で味わうのはこれからかもしれない。  アフターコロナを見据えてテクニアグループは新体制で進化していく。そのビジョンは今、はっきりくっきり見えている。そこにたどり着くために一番大切なことは、社長自らが行動する姿勢を背中で見せることである。テクニア維新は始まったばかりだ。

20年7月1日掲載

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