泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第94回 『人を育てる日系企業』
タイでのものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。本号では、前号に続き、TNIの卒業生のギッサナー パラニヨム(略称ソム)さんの講演の要約です。前号の「日本企業就職時のホウレンソウなどの新人訓練で、いまの自分がある」というソムさんのさらなる日本・日系企業の長・短所の指摘は、日系企業の皆さんが心しておく必要があることと思います。
編者:吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問
タイ人から見た日本・日系企業の難しい点
1.時間厳守:日本人は時間に対して厳格と思われがちなので、タイ人にとって居心地がよくない雰囲気になる。➡タイ人にとっては厳しすぎる印象。
2.意思決定のスピード:現地に意思決定権限がないことがよくあり、それによって会議で議論した結果、何も決定してないまま判断が延期される場合もある。また、トップまたは上司の命令は絶対であるため、意見を出しづらくなる。➡特に本社の決定を待たねばならないのは、仕事のモチベーションに影響。
3.仕事とプライベート時間:企業によるが、日系企業の場合、お客様に高い品質の仕事を提供することが求められている。それによって残業が多すぎるとバランスが崩れてしまう。➡朝まで仕事をしたり、ラーメン夕食で、仕事に戻ったりすることは大変。
私から見た日本とタイでの働き方の違い
1.コミュニケーションの取り方
•入社時から報連相の重要性の研修を受けられることが多い。現場において現状・進捗確認・課題点といった質問をせずに、現状を把握できる。➡3か月研修は、上述のように役立ち、事務連絡の週報で言わなくても情報を共有できる。
•タイは報告してくれることが少ない。担当者と頻繁に話し合わない限り、現状と課題を把握できなくなる。この為、情報共有できる場または情報共有しやすい現場の雰囲気を作る必要がある。タイ人は報連相の習慣がないので、社内研修で報連相をやるメリットを理解させることが大切。➡スタッフと進捗確認について、レポートなどのルールをつくるべき。
2.お互いの意見を尊重
•企業によるかもしれないが、日本の場合、 日本人が強いところはチームワークとよく言われる。ブレーンストーミングの時に、何も心配がなく言いたいこと・意見を出すことができる。
•タイの場合、言葉・分の違いでタイ人と日本人の間のコミュニケーションの壁がよくある。会議の時タイ人が意見を出さないことをよく聞く。言いたいことを言える現場を作るため、“日本はこうだよ。タイはこうだよ”ではなく、まず相手の考えを尊重し、どうしてそう考えるのかを理解し話し合うべき。結果、会社に対してより良いアイデアが出る。➡上司に言いにくいことも含め、朝会は重要で、よいアイデアが出る。
3.上下関係
•日本企業は上下関係が厳しい。社会人のマナーとして上司を尊敬することが当然。
•タイ人の場合、必ず上司を尊敬することはない (習慣がない)。逆に上司を尊敬できない原因で、すぐ仕事を辞めてしまうことが多い。トップダウンではなく、フレンドリーな現場を作ったほうが、仕事がよりスムーズに進む。さらに、タイ人スタッフとコミュニケーションをやり易くなることに繋がってくる。
4.ワークライフバランス
•仕事が終わらないので残業をすることが一般的。プライベート時間より仕事の時間を優先する。タイの場合、多くの人が時間内に自分の仕事を終わらせて、帰宅後、プライベートを楽しめるワークライフバランスを大切にする。
質疑応答①仕事を長く続けることについて:同じ仕事は飽きるかもしれませんが、日本で勉強したいこと、タイとの架け橋の立場など、また毎年学べるなど向上心がモチベーションになります。 ②仕事の習得と課題の与え方について:1日とか1週間ということでなく、メールとか何か目標を立てて訓練し、習うことです。
20年7月1日