タイ版 会計・税務・法務
第136回 今回のテーマは、 民商法改定案(会社関連規定追加‐M&A)についてです。
Q:民商法の会社に関連する部分について、追加で会社の合併についての改定案が検討されていると聞きましたがどのようなものでしょうか?
A:前回は会社運営に関わる民商法上の手続き等について、特に総会の招集等についての改定案について述べさせていただきましたが、その後さらに追加で改定案が発表されました。その中で会社合併についての規定の変更が含まれておりましたので、主要な点について述べたいと思います(*今後、修正等が行われる可能性があります)。 まず、現在のタイの民商法では、会社合併については「新設合併」という形式しか認められておりません。 新設合併というのは、合併を行うもとの会社がすべて合併後に消滅して、一つの新しい会社に権利義務を引き継ぐもので、タイでは民商法1241条において「合併後の会社は新規の会社として登録されなければならない」として規定されているためです。一方、日本を含む他の国では、「吸収合併」という形式が認められています。これは、合併前の会社のうちの一つを存続会社とし、他の会社がこの存続会社に吸収される形で、合併後一つの会社になるものです。 新設合併の場合、合併後の会社は以前の会社とは違った法人となりますので、実務面での移行(例:各種ライセンスや税務番号の変更)で手続き的に面倒なことも多く、日本の合併等においては、ほとんどが吸収合併で行われている一方、タイでは対応ができないため、吸収合併を行う場合には「全部事業譲渡」+「清算」という形で、実質的な吸収合併が行われてきました。 これは、2社(A社とB社)の合併で、A社を残したい場合には、B社の全資産と負債をA社に事業譲渡という形で移転し、その後B社を清算してB社の株主に残余財産を分配することにより、実質的にA社を存続会社とした吸収合併とほぼ同じ効果を得ることを狙ったもので、また税制もこの全部事業譲渡については出来る限り税務コストを低く抑えるような特別の措置が講じられています。 さて、今回の改正案では「新設合併」に加えて「吸収合併」の制度が新しく加えられることになりそうです。吸収合併の方が、上述のとおり少なくとも一社が残るため、残る会社の債権義務の移転作業が発生せず、実務的な手間が大幅に削減されます。 現在の民商法においても、新設会社は旧会社の全ての権利・義務を継承するとなっていますが、例えば、労働者保護法においては、労働者は新設会社への移転を拒否する権利を有している等、必ずしも旧会社の状態が新会社に当然に受け継がれるわけではありませんでした。そうした意味で、吸収合併が認められると少なくとも存続会社は旧会社と連続的に運営が出来ると思われます。 もっとも、これまでタイにおける税制、労務制度等は全て新設合併を前提に規定されておりますので、民商法の改定のみで他の法律が対応できるのかは、今後関連規定の検討も待たれるところです。 また、今回の民商法追加改定では、発起人・株主の最低人数、配当時期の規定、等についても対象となっており、また今後適宜お伝えできればと思います。
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
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20年9月8日掲載