泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第97回 『従来の教育とTNIものづくり教育は何が違うか?』
筆者:吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問
タイでのものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。前号では、開学14年目となるTNI学部・修士課程の変化を紹介させていただきましたが、本号では、TNI教育がタイの一般教育とどう違うかを事例を含めてお知らせします。
1.日本的ものづくり教育と従来の教育との違い
TNIで教えるものづくりとは、1)日本の生産に関する文化・価値システムで、2)使用する人(顧客)の要求事項に合った科学技術と技術スキルを使い、高品質製品を創造する術(アート)と精神を言います。また、『おもてなし』という言葉が流行していますが、上記は製造だけでなくサービスなどを含む広い概念で、最近は「モノ」という言葉も使われています。TNIのものづくり教育は、タイのこれまでの価値観を改め表1にあるように、タイ従来の教育方法を反省し、これまでのやり方と違う革新的・画期的なものです。
2.TNIのものづくり教育の実例
(1) 芝浦工業大学(SIT)との国際PBL
•単なる講義や実験でなく、PBL(課題解決型学習)としてチームで課題に挑戦+学習することに重きがあります。
•2019年9月で4回目の今回は、SDGs(持続可能な開発目標)に向けたソサエティ5.0がテーマでした。両大学の学生と教職員59人が参加しました。タイ日の学生42人が混成グループになり、英語で、医療など上記SDGの課題に取り組みました。
•システム開発やデザイン能力を育成する試みですが、タイの食事や、衣装を着てもらう文化交流もあり、終わるとすぐに次回の日程を期待する学生が多い状況です。
(2)経営学部新商品プレゼン大会
•2020年2月で7回目になった同大会は、「新商品企画提案」という課題に7か月間約30チームが取り組み、最終的に残った10チームが日本語で発表して競い合いました。
•発表内容、説得力、プレゼンの工夫、言語表現能力、質問への対応とチームワークが評価ポイントです。
•各チーム10分発表の後、5分の活発な質疑応答を行いました。審査委員も「分かりづらい答えにくい意地悪質問」をしました。
•最初は、原稿を読んでいた発表者が多く、質問に答えられないチームもありました。今回は、学生からもウイットに飛んだ難質問が出てきました。回答は、思案の時間があっても、活発、ユーモアのある、見所・聞き所が多い内容でした。プレゼンは、パワーポイント、動画のほか、写真のように熱演パフォーマンスが見られました。
(3)ものづくりエンジニアプログラム
•「ものづくりエンジニアプログラム」は、2016年度から日本の産官学協力で新設されたプログラムで、特に日系企業のニーズに応える、日本のものづくりの精神・考え方・方法などを習う内容です。
•工学部の3年生を対象に各4カ月の設計・開発と自動化・IoTによる工程カイゼンに重点を置き、日系企業6~7社にも講義、ワークショップや事例見学などで協力いただきます。受講者は、さらに課題解決型学習(PBL)のチームワーク・課題発表に取り組みます。
3.ものづくりとインターンシップ事例:サーラットさん(Mr.Sarut Peetasai)
•バンコク出身、日本語経営学(BJ)専攻、2018年4・5月 埼玉県のフコク社でインターンシップ。2020年卒業、同社人事部に勤務。
•研修参加目的は、日本の職場環境に関心があり、自己能力向上のため、色々な海外拠点と事業をどのように実施しているかを具体的に学ぶことであった。
•研修は、人事部関係の資料や翻訳など、更に主力の工業用ゴム製品の工程管理・カイゼンなどで、結果として日本人や日本企業の働き方を理解し、仕事の重要さと共に日本語力も向上できた。特に時間管理と問題解決・カイゼンはこれからも役立つ。
•また当初日本企業は厳しいと言われていて、大変と思っていたが、ルールを守る大切さを理解したと思っている。
2020年10月1日掲載