タイ企業動向

第60回 「新型コロナ感染タイ国内の記録⑦」

感染拡大から半年を超えた新型コロナウイルスは、タイでは制御可能な状態に置かれてはいるものの、他のアジア地域や欧州、アフリカ、南北アメリカでは引き続き猛威を振るっている。このため、貴重な外貨獲得源である外国人観光客の受け入れ再開に踏み切れず、観光業は未だ惨状から立ち直れずにいる。今年の観光収入は前年比70%も落ち込む見通しで、回復まで2年を要すとの試算もある。こうした折り、タイ国内でもう一つの懸念とされてきた滞在外国人に対する査証(ビザ)をめぐる動きがあった。結果として、「タイらしい」で決着したものの、背後には僅かな収入源も逃したくないタイ観光業界の意地と粘りがあった。
(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

新型コロナの感染が一気に広がった今年3月中旬以降、タイ政府は次々と施策を繰り出し、ウイルスの国内侵入を断ち切る手段に出た。国際線旅客機の受け入れ停止、陸上国境の封鎖、そして極めつけが私権を制限する26日からの非常事態宣言の発令だった。  この時、商用などでタイ国内に滞在していた外国人の多くは再入国が難しいことから出国を見合わせた。一方、バカンスでタイを訪れていた外国人旅行客の中には、航空機の欠航や航空券の高騰から帰国の道を絶たれた人が少なくなかった。その数、推定15万~16万人。こうした人々を救おうと政府が採った対策が、ビザの失効猶予だった。  通常、観光ビザは30日間滞在のものが手続きにより60日間に延長される。中には、ラオスなどの近隣国にビザランに出かけ、さらに〝再延長〟をする人も。しかし、いずれも滞在期限を過ぎれば不法滞在(オーバーステイ)となり、罰金が科されるうえ期間が長ければ次回以降のタイ入国が制限されてしまう。観光立国タイとしても、できるだけ穏便に済ませたかった。  そこで入国管理局が採った措置が、有効期限を迎える観光ビザの失効猶予だった。4月、延長の手続きを免除したうえで全ての外国人旅行者に引き続きの滞在を認めた。これを数次にわたり延長し、最終的に9月26日を期限とした。期限までに出国するか、何らかのビザに切り替えるよう、告知も繰り返し実施した。  政府は当初、これ以上の延長には応じないという姿勢を崩していなかった。ところが、期限の1週間前になってもなお10万人以上の人々が何らの手続きもしていないことが分かった。加えて寄せられたのが、観光業界からの陳情だった。海外からの旅行者が入国できない中で、現在タイにいる外国人滞在者は貴重な収入源。今は少しでも収入を確保しないと多くの観光産業は破滅すると業界側が押し通すと、最後は入国管理局が折れた。  当初期限から2日後、政府は新たな失効猶予の期限として10月31日を打ち出した。通告を守って新たにビザを取得した人については、さらに1カ月間の滞在期間を付与することにした。2度あることは…。早くもそんな噂が広がっている。(数値などは10月9日時点。つづく)

 

2020年12月1日掲載

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