タイ版 会計・税務・法務

【第88回】 新規投資に関する減価償却の特別措置について

Q::最近、タイにおいて新規投資の振興のため、減価償却について税制上の優遇策がとられたと聞いたのですが、これはどのようなものでしょうか?

A:これは勅令(Royal Decree)604号で定められたもので、2015年11月3日~2016年末までに、新規に購入した資産については、減価償却費を200%まで計上することが認められるという優遇措置です。通常は、減価償却費は購入した資産の100%までしか認められないところ、その倍の金額まで「税法上」は費用として計上できることになります。例えば、10万バーツの機械(償却年数5年)を購入した場合、通常の場合ですと毎年の減価償却費として計上できる費用の金額は10万バーツ/5年=2万バーツになりますが、今回の特例に当てはまる場合には、10万バーツ×200% / 5年=4万バーツとなり、費用を大きく計上できることから、減税効果があります。つまり、減価償却費を大きく計上することによる、新規投資の優遇策といえましょう。この優遇策については、以下のとおり定められています。

  1. 対象

(1)機械、部品、装置、道具、家具類

(2)コンピューターソフトウェア

(3)車両(ただし、リース用車両として購入されていない10名以下の乗員のものを除く)

(4)建物(ただし、土地と居住用家屋を除く)

 

  1. 適用

対象となる資産の償却年数(機械等—5年以上、ソフトウェアー3年以上、建物—20年以上)に応じて、200%をもとに計算した費用を均等に割り振って計上することになります。

 

  1. 要件

(1)当該資産は使用されたことのないものであること(*中古機械等は対象外となります)

(2)上記1.(1)-(3)の資産については、2016年12月末までに使用可能な状況にあること。(*ただし、大きな機械等についてはこの条件の適用緩和が議論されています)

(3)上記1.(4)の資産については、2016年末までに建設許可等必要な認可を受けること。

(4)当該資産に関しての、投資優遇策や他の税務上の恩典を受けていないこと。

この恩典の適用を受ける為には、納税者はレポートを用意して税務署に提出する必要があります。また、もし当該資産を減価償却の対象期間中に売却した場合でも、遡って通常の減価償却率で計算をやり直す必要はない旨、規定されています。なお、この措置は法人税計算上の措置であり、会計上の減価償却費が大きく計上されるものではありませんので、財務諸表の損益計算書の数値を悪くするものではありません。

BOIの製造業の場合には、免税措置等を受けているために今回の優遇措置の利用は難しい面もあるかとは思いますが、投資優遇を受けていても資産に関する税金面での優遇のない場合や、一般企業におけるシステム投資(ソフトウェア購入)、建物建設等の場合には、今回の減価償却に関する特例は有効に活用できると思いますので、利用の可否について検討されることをお勧めいたします。

 

なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク ディレクター

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk

 

2016年9月

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