タイ版 会計・税務・法務

第140回 新年明けましておめでとうございます。 本年もよろしくお願い申し上げます。 今回のテーマは、「移転価格税制についての続報」です。

Q:昨年から実施された移転価格税制の、その後の状況等について教えてください。

A:移転価格税制については、①税法の改正、②法人税申告書付表の導入、③移転価格文書の準備、といった形でタイにおいても浸透してきている一方、昨年は新型ウィルス等の影響から、税務申告期限の延長や付表作成、移転価格文書の準備が進まなかった等の混乱や問題もみられました。  こうしたなか、税務当局からは新しい通達が発表され、「関連会社間の取引価格について修正(更生)を行う手続き」について明確にされました。これは、もともと移転価格税制に対応した税法の改正、第71条bisに基づくものですが、今回はこれについて少し解説したいと思います。  まず、税法71bisでは、①不当な利益移転がグループ間取引を通じて行われた場合の税務担当官の価格修正の権限、②グループの定義、③価格修正の結果への対応の3点が規定され、詳細は通達で定めるとされていたものですが、2020年11月に発布された通達は主として①に関するものです。  内容としては、価格調整の対象となる取引として、a) 物品の販売やサービスの提供といった商業取引、b)金利や金融収入等の金融関連取引、c)その他の収入や支出等の取引の3種類に分類しております。  その上で、こうしたグループ間取引の価格について、独立企業間との取引価格を決定して次のように修正をします。1)対象となる企業が、他の独立企業との間で同様の取引を行なっている場合には、その同様の取引が独立企業間取引価格算定の根拠となる。2)対象となる企業が、他の独立企業との間で同様の取引がない場合においては、他の独立企業間での取引をもとに価格算定を行う。また、この場合における「他の独立企業間」というのは、タイ国内の取引に限らず海外での取引も含み、また、タイ国内企業のみならず海外企業間の取引も含む。  この通達自体は、これまでの移転価格税制対応、特に文書作成の実務を大きく変えるものではないと考えられます。ただし実際の実務においては以下の点に注意が必要と考えます。まず、移転価格の付表の形式にもあるように、税務当局は上記の3区分を意識した形で税務調査を行なってくる可能性があります。したがって、営業利益率に関係の深い「商業取引」のみならず、比較的市場の公正レートが分かりやすい「金融取引」や、その他損益で、グループ間取引が大きい場合においては、こうした取引についてもそれぞれが公正価格で行われていることを確認するといった対応も必要になります。  また、会社の中で「グループ会社」と「グループ外会社」の取引が混在する場合には、同価格や同条件で取引を行うよう、十分に注意を払うことが必要になります。一方で今回の通達において、比較対象として「海外の取引」「海外の企業」が明示されたことは、必ずタイの企業や取引のみを比較対象として抽出しなければならないといった義務がないことは安心の材料かと考えます。  新型ウィルスによる景気落ち込みからの税収減や景気刺激策にともなう財政支出増から、今年以降昨年から施行されたこの移転価格税制による調査も本格的に始まるかと思いますので、十分にご準備ください。


小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. パートナー(ジャパンデスク)

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: JPD@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk

2021年1月1日掲載

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