泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第101回 『TNIのものづくり教育の方針』

タイでのものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。本号では本学の中心課題の教育方針の話をさせていただきます。(*残念ながら、年末の感染急増で再開していた教室授業も再び遠隔授業になり、1月20日開催だったジョブフェアもオンラインになりました。大学の年間行事もだいぶ予定を変更しましたので、お問い合わせいただければ幸いです)。
筆者:吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問

今日テクノロジーの進展は目覚しく、その変化に応じた能力を有する人材育成が重要課題となっています。TNIのすべての教育課程は、概念図にあるように、現場のニーズを柱とした能力育成(Competency-based Education)の教育方針に基づいて設計され、すべての履修者が3つの能力を身につけ、現場のニーズに対応した即戦力となるように努めます。ものづくり思想に基づく専門技術力だけでなく、日本の環境にいないタイ人がものづくり環境も学ぶ土壌として日本語・日本理解を含めた語学・コミュニケーション力、さらに産業の土台としての組織力も重要です。特に日本企業等とのネットワークを生かしたインターンシップで、ものづくりの考え方や組織行動などの実務力を強化します。  また本学の倫理・価値概念 (右のTNIの6つの中核価値をご参照) として、KM-HR-HoP、すなわちK=カイゼン、M=ものづくり、H=ハンセイ(反省)、R=リスペクト(自他の尊重)、Ho=オネスト(正直)、P=公益意識を中核的価値(コアバリュー)として、学生を指導しています。これらは産業社会に重要で、自分を磨き、組織力を向上し、Quality of WorkとQuality of Life向上のメインエンジンになります。 専門技術力 (Technical Competency) :TNIで提供するすべての学部(大学院)コースで、専門別に付与する技術力です。すべてのコースは、履修者が理論・原理・考え方、技術を、実際に活用できる裏づけのある実務家、専門家になるように計画されています。そのためにワークショップでの実習、プロジェクト実施、企業見学と実務研修、タイおよび日本の専門家を招いての学習、日本への研修旅行など、さまざまなプログラムを準備しています。 経営力(Managerial Competency):学習者は、経営管理の知識と基本的な技術(概念図では管理基礎力)を身に付け、個人レベル、グループレベル、さらには組織レベルにも対応できるように育成します。よって履修者は高い能力と職務に対する自己開発精神を有することができます。 語学力 (Language Competency) :TNIは、今日の情報化社会の中で、境界のない知識とテクノロジーの交流に着目し、聞く、話す、読む、書くの 語学4技能 を重視します。英語と日本語に必修課目および選択課目を設定し、卒業時に英語と日本語でビジネスレベルコミュニケーションができるように配慮しています。これはまた就職に有利になるばかりでなく、日本や外国へ進学する際にも有効です。 組織力(Organizational Competency):すべての履修過程にチームワークと規律(Work Ethics)を取り入れ、学習者は、組織で働くということを意識し、公正と正義に則って物事を判断し意思決定できる、判断力を身に付けます。また対人関係能力 (Interpersonal Relations Competency)を培います。

産学連携インターンシップ

•TNIは、製造業・ITC・商業など400社以上と連携し、その多くは日系企業で学生の専門分野に合った現場でのインターンシップをタイと日本で実施しています。また、通常でも、産業ニーズに合わせた実践的なカリキュラムを重視していますが、この企業研修による日本の企業文化や実務体験は、その後の学生の就職観と人生に大きな影響を与えます。

•インターンシップは技術系と事務系の2種類あり、工学部、情報技術学部とMI専攻学生は4年生の4カ月間、ホスト企業で生産性向上、品質向上、現場カイゼン、治具装着段取りカイゼンなどのプロジェクトに取り組みます。一方、BJなどMI以外の経営学部生は3-5月の2カ月間、ホスト企業で会社全体の業務を把握し、レポートを提出します。

•日本では、静岡県、堺市などの自治体や民間企業のご協力で年間数十人が数週間から2か月ぐらいの企業研修を受け、日本企業のやり方、企業文化などを学び、日本ファンになる学生が多く、日本で就職する例も見られます。日本の受け入れはTNIパートナーの日・タイ経済協力協会(JTECS)が窓口になっていただいています。

2021年2月1日掲載

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