タカハシ社長の南国奮闘録
第112話 会社の宝
日本のTEKNIAでは、昨年の内定者の辞退により今年度の採用に失敗した。10人の中国人研修生が帰国することで人手不足に陥るため、早めに採用へと動き出していたが、内定辞退は大きな痛手となった。コロナによりタイからも日本に人材を送り込めない状況なので行き詰まってしまった。 これまでほとんどの新卒採用は幹部任せであったが、今回から私もSNSや採用アプリを活用したり、ハローワークに出向いたりするなど採用活動に加わった。面接も一次面接から携わり、合否は担当部署の長と打ち合わせて合意のもと進めた。社長自ら採用を行うのは時間を要し体力的にも大変だが、採用に関することは全てに関わっていきたいと思う。なぜなら事業を構築する上でもっとも大切な仕事だと気が付いたからだ。会社の行く末は社員の質に左右される。 採用活動中、タイ工場立ち上げ時のことが脳裏をよぎった。500人以上の面接をして70人採用した。当時は立ち上げのために多くの人手が必要だったので、とにかく人を集めることに必死で、ひとりひとりの本質や思いときちんと向き合うことが出来なかった。10年たった今、残ってくれているのは2人だけだ。 相手と長い縁を結ぶには、こちらも本気で向き合い、相手を知ろうとしなければならない。しかし、面接の短い時間で相手を理解するには限界がある。面接の時だけなら自分を取り繕うこともできるからだ。面接では明るくてハキハキしていた人が、実は挨拶もコミュニケーションも苦手な人だったことが採用後に分かったケースもある。うちが求めていた人材は人と人との潤滑油的存在であったため、この人の本質がわかっていれば採用の結果も変わっていた。 こうした経験から、TEKNIAでは面接時に「個性学」というものを取り入れている。統計学を元に、その人が持っている個性をデータ化して算出してくれるものだ。人には適材適所があり、本人も気が付いていない長所や強みがあったりする。 あくまで個性学はその人を客観的に見るためのツールであり、一番大切なのは対面の場で感じることだが、会う前に相手の情報として知っていることが一つでも多いと面接での見え方や質問の仕方が変わってくる。採用の失敗は、教育では取り戻せないといわれている。これは才能の優劣ではなく、会社との相性がどうかということだ。 採用活動を始める前に、今自分の会社がどのような人材を求めているのか社員像を明確にする。それを元に、判断基準となる大事なワードを見出しにして募集ページを作る。例えば、理念経営を大切にするのであれば大々的に理念を掲載する。 経営理念に共鳴していれば会社のあり方や方針を説明するのはスムーズだが、これが最初から合わないと、どんなに優秀な人材でもこちらの思いは伝わらない。いかに自社を分析できているかが重要であり、それにより相手との相性を判断する。 しかし、どこまで行っても最終的に一番大切なのは社長の持っている縁だ。縁には良縁と悪縁がある。良い縁と結びつくかは社長の器次第だ。良い会社には優秀な人が集まる。 どんな縁にも意味があるが、悪縁を繋いでしまうと物事が悪い流れへ引っ張られてしまうこともある。それを見抜けるかどうかは経験がものをいう。 良い人が会社に来ないとぼやく社長がいたとすれば、それは自分の実力がそこまでだと明言しているようなものだ。良い人に恵まれる人間にならなければ、採用も事業も成功しない。会社の宝となる社員と出会えるように、私も日々、器の広い人間になれるよう心技鍛錬していきたい。 来期からは新卒採用により一層力を入れ、一から宝を育てていくと決めている。やがてそこからタイに魅力を感じ、赴任したいという社員が育ってくるのを思い描くと今からワクワクが止まらない。
2021年5月5日掲載