タイ企業動向

第69回 「加熱するタイの植物由来食品市場」

高まる健康志向や新型コロナウイルスの感染拡大に伴う巣ごもり需要、さらには地球温暖化防止への意識の高まりなどから、かつてないほどに植物由来食品への関心がタイで広がっている。コロナの規制下にあっても投資や出店など企業活動は盛んで、さまざまな食材や加工食品が開発され、市場に出荷されている。市場規模はすでに400億バーツ(約1400億円)に達しているという試算もあり、年間二桁%の高い成長が続いている。今やタイ人の4人に1人が口にしているという植物由来食品の現在と企業動向を概観する。 (在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

カシコン総合研究所などがまとめたところによると、タイの植物由来代替肉市場は現在約360億バーツ。年間8~10%の高いペースで成長しているといい、3年後には400億バーツ台後半に達するという試算もある。現在の世界市場は約60億米ドル(約2000億バーツ)ほどと見られ、単純計算で市場の5分の1弱がタイにあることになる。  原因は大きく3点あるとされる。1つ目が、急速に進行する少子高齢化から来る健康志向の高まりだ。タイの現在の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に出産する子供の数)は1.51人。東南アジアではシンガポールとともに群を抜いて低く、日本の1.36人に近づいている。

将来を支える子供の数が減るということは、老後の世話は自分で負わなければならないという意識に結びつく。もともとあった美容への高い関心と相まって、このところ急激に健康志向が進んだというのが市場の大方の見方だ。

2つ目が新型コロナの流行がもたらした巣ごもり需要だ。自宅にいる時間が増えると、どうしても偏ってしまうのが食事。回数も量も増える。一方で、美味しいものも食べたい。これらを考えた時に向かった関心の先が植物由来食品だった。メーカーも増え、本物の肉と変わらないさまざまな食品が販売されている。しかも、インターネットで注文でき自宅まで届けてくれる。

3つ目が地球温暖化対策に貢献できるという心理的な関心だ。英研究機関によると、牛肉を1キロ生産するのに必要な温室効果ガスの発生量は約100キロとされる。これに対し、大豆などを原材料とした植物由来の代替肉では3キロ強とその差は歴然だ。肉牛の飼育には大量の飼料を必要とする。世界的な天候不順や穀物市場の混乱が続く中、植物由来の代替肉開発は猛烈な勢いで市場に浸透する。タイ政府も支援する方針だ。

タイと並んで植物由来食品の生産・流通が盛んなのがシンガポールだ。現地の食品製造会社グロースウェル・フーズは、国内初となる完全自動操業の代替肉工場の稼働をスタートさせた。年間の生産能力は約4000トン。コロナ禍にあって無人の自動工場は国の施策とも合致する。鶏肉や魚肉などの代替品を製造するという。

シンガポール政府は、関連市場の将来性は1兆2000億ドルに上るとも試算する。その最先端の地位を確保するため、国立南洋理工大学に専門の研究機関を設置して開発を後押ししている。(つづく)

2022年1月1日掲載

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