タカハシ社長の南国奮闘録

第120話 タイに進出した 中小企業の物語

人が一番肝心

久しぶりに社員面談を行った。今回は社員一人ひとりの気持ち、話を聞き、それぞれに自分の気持ちを伝えることを心がけた。そのために、頑張っている様子が見られる社員を全社員に推薦してもらったり、各社員とキャリアアップの課題について話し合ったりした。
実際にやってみると、私と社員との間にわだかまりもあったが、それはコミュニケーションが足りず、知らなかっただけという場合が多かった。話し合うことで、少しは誤解が解けたように思う。もちろん、こちらは社長だから社員の方から遠慮して言えないことも多かっただろう。
2009年のリーマンショック直後の面談では社員に謝ることしかできなかったが、今は苦しいながらも笑顔でたくさん話ができる。私はこれまで、リーマンショックのような横風に耐えられる会社にしなくてはと、さまざまな挑戦をし、会社の未来につながることに注力してきた。その一方、社内のことを幹部に任せきりにしてきた結果、改革が思うように進んでいなかった。なんとなくマンパワーに頼ってしまっていた。この状況は、日本の工場もタイの工場も同じだった。要するに、どちらも私の責任なのだ。会社は私自身の生き写しであり、現状は社長が作り出している。
こうした大反省から、現在はエンジニアリングの工程分析力、見積もり能力、工程改善、加工時間短縮、自工具コストダウン、品質保証力の強化、営業力の改革に取り組んでいる。人に頼らず、組織と仕組みで完全に動かせるようにしたい。ずいぶん改善してきたが、まだまだだ。顧客満足をもっと獲れるように努力したい。
ただ、仕組みやルールだけでは不十分だ。信玄公が残した「人は城、人は石垣、人は堀」という言葉は、人はお城以上に、石垣以上に、お堀以上に肝心という意味である。つまり、人が一番肝心なのだ。全社員と意思疎通をはかるためには、各工場にいる30代前半の工場長を教育する必要がある。こういった人材育成が一番大切なことだと思う。
コロナ禍も徐々に収まってきたので、タイの社員とも面談を行った。すると、管理も甘く、問題だらけだったことに気づき、褌を締め直さないといけないのは私のほうだと実感させられた。そして、タイ工場にも大改造が必要だと思い立ち、彼らにも改革を始めると宣言した。頼りになる新戦力が日本から加わったこともあり、タイの社員も変わることを予感しているだろう。少しずつではあるが、日本もタイも確実に吉兆が見え始めている。
この経験を通じて、私が感じていることがある。それは、どうなっても私が変われば世界は変わる、私が変わらなければ世界は変わらない、ということだ。今年は私自身にとっても大切な年回りのように感じる。今やるべきことがたくさん押し寄せてくる。悪いことが起きるのではなく、今までの習慣を正し、良くなりなさいと教えてくれているようだ。私の性格やあり方、生き様を見直すように時が流れ、動いているのを感じる。動き回る運命が私自身の改革に導いてくれているのだと思う。

2022年9月12日掲載

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