タイ版 会計・税務・法務
【第72回】 新BOI制度(IHQ・ITC)について
Q:新BOI制度では従来の地域統括事務所(ROH)、国際調達事務所(IPO)に関する考え方が変わったと聞きましたが。
A:はい。従来の地域統括事務所(“Regional Operating Headquarter”以下ROH)及び国際調達事務所(“International Procurement Office”以下IPO)は、それぞれ国際統括事務所(“International Headquarter”以下IHQ)及び国際貿易センター(“International Trading Center”以下ITC)に置き換わることとなりました。
Q:従来に比べ、どのように変わったのでしょうか。
A:従来より適用条件が緩和されたということができると思います。下記が新旧の適用条件対応表です。
ROH(地域統括事務所) | IHQ(国際統括事務所) |
登録資本金額が1,000万バーツ以上である
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登録資本金額が1,000万バーツ以上である |
最低3か国に所在する在外関係会社・在外支店にサービスを提供している | 最低1か国に所在する在外関係会社・在外支店にサービスを提供している |
以下のような事業計画・事業範囲を有する
1. 組織管理・事業計画の立案 2. 原材料・部品・完成品の調達及びその他調達に関するサービスの提供 3. BOI投資奨励区分7.20に該当しない研究開発活動の実施 4. 技術サポート 5. マーケティング・営業促進 6. 域内の人材訓練・人材開発 7. ビジネスアドバイザリー (例:財務管理、マーケティング、会計システム) 8. 投資事前調査の実施、及び経済・投資分析の実施 9. ローンの管理 10. その他BOIが必要に応じて認めたサービス |
以下のような事業計画・事業範囲を有する
1. 組織管理・経営計画・事業計画の立案 2. 物品の調達 3. 研究開発活動 4. 技術サポート 5. マーケティング・営業促進 6. 人材訓練・人材開発 7. ビジネスアドバイザリー (例:財務管理、マーケティング、会計システム) 8. 経済・投資分析・調査の実施 9. 債権管理・コントロール 10.トレジャリーセンター 11.その他BOIが認めたサービス |
IPO(国際調達事務所) | ITC(国際貿易センター) |
登録資本金額が1,000万バーツ以上である
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登録資本金額が1,000万バーツ以上である |
倉庫を有する又は賃借しており、在庫管理システムを使用している | 当該条件について規定上記載なし |
調達・品質管理・梱包作業を実施している
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当該条件について規定上記載なし |
物品は国内の調達先を含む複数の調達先から調達されている | 当該条件について規定上記載なし |
Q:この背景には、何があるのでしょうか。
A:従来のROHは、複数国に点在する関係会社の統合バックオフィス・管理センターたる外国資本法人をタイに設立することを検討している外国人投資家にとって魅力的な選択肢でした。その恩恵としては、ROH駐在員に対する労働許可証発行条件の軽減、駐在員の個人所得税率の軽減税率(15%)の適用が挙げられます。一方で、最低3か国にある関係会社に対するサービス提供が求められており、実際の適用が難しいという問題がありました。
また、IPOは、原材料の卸売業者を誘致する目的で設定された区分であり、タイで商社事業を行うことを検討している外国人投資家にとって魅力的な選択肢であった一方、IPOとして認められるための諸条件の達成が難しいという問題がありました。
今回の改正は、タイにおけるインバウンド・アウトバウンドのビジネスを促進し、タイを『グローバルビジネスハブ』とするべく、ROHに代わるIHQ、IPOに代わるITCの設置及びこれに係る適用条件の緩和を行い、この機能を担う企業の積極的な誘致を図ろうとする意図があるかと思料されます。
制度が開始されてからまだ一カ月程度しか経過していないこともあり、実際の運用や、投資家がどのようにこの制度を受け止めているかには今後の観察が必要ですが、今回のBOI制度の改正上、注目すべきポイントかと思われます。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
2015年5月