タイ版 会計・税務・法務
【第80回】 駐在員の本国給与についてのグロスアップ計算について
Q:タイにおいて、これまでは子会社から受け取っていた給与(現金)のみについて源泉徴収をしていたのですが、日本でも本社から給与を受け取っており、また、他にもいろいろと会社で負担してもらっているので、この方法はよくないと聞きました。本来はどうすれば良いのでしょうか?
A:このテーマについては、本当は年末における源泉徴収税の調整を行う際に取り上げた方が良かったかとも思うのですが、日本人派遣社員(Expatと呼ばれています)がいらっしゃって、かつ、その方が日本でも給与を受け取っておられる場合には、いろいろと検討が必要なことが出てきますので、以下では論点を挙げてご説明させていただければと思います。
- タイにおける個人所得税について
まず、タイの税法では“タイ国内における職務若しくは事業活動、タイ国内の雇用主の事業活動、又はタイ国に所在する資産に起因する所得で、40条に規定するタイ国内における課税対象所得を前課税年度に得た者は、その支払地がタイ国内であるか国外であるかを問わず、本節の規定に従って所得税を納付しなくてはならない”と定められており、タイで就労したことにより得た所得については、たとえその支給が日本で行われていてもタイにおける課税対象となります。なお、時々ご質問を受けるのは、本当に日本で働いていて、その所得を受け取るような場合ですが、これはタイ国外源泉所得となり、その場合には当該所得をタイ国内に持ち込んだ場合で、かつ対象となられる方がすでにタイ居住者(タイでの滞在が年間180日を超えている場合)にのみ、タイでの課税対象となります。
- 所得税の対象の支給の範囲
タイの税法においては給与の現金給付以外にも、以下のとおり規定されています。
(1) 雇用により生ずる所得、すなわち給与、賃金、日当、賞与、報奨金、退職金、年金、住宅家賃手当、社宅 施設の家賃相当額、会社が負担した社員の債務弁済額、その他雇用により生じるすべての金銭、資産 又は便益
(2) 業務上の職務、職場または人的役務提供を起因として生じる所得、すなわち手数料、口銭、割引料、補助金、会議手当、退職金、賞与、住宅家賃手当、所得の支払者が無償提供する住宅施設の家賃相当額、所得支払者が支払う当該所得者の債務の弁済額、又はその他職務、職場、又は人的役務提供によって生じる金銭、資産又は便益(下線は追記)。
したがって、よく対象となるのは、コンドミニアム等の支払いや教育補助を会社が行なっている場合には、こちらも所得税に合算することになります。法律で規定されている非課税所得(職務必要に必要な交通費、出張旅費実費等)以外については課税対象となりますので、この際にもう一度どういう福利厚生が会社経費として支出されているのかを見直しをして、総額を課税対象として認識をすることが大事かと考えます。
3 グロスアップ計算の考え方の適用
さて、要点としては1.日本払い給与・手当の加算、2. 会社負担で支出された福利厚生費用の加算ということが、必要になってくるかと考えますが、この両者ともに基本的にはグロスアップ計算という考え方を適用して税額計算が行われる場合が多く見られます。このグロスアップ計算と、会社における源泉徴収税の計算については関連している項目でもありますので、引き続き次回取り上げさせていただきたいと考えます。
今後取り上げてほしいというようなテーマがございましたら、参考にさせて頂きたく存じますので、下記のEmail宛にご連絡頂戴できますと幸いです。
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著者プロフィール
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク ディレクター
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
21016年1月