タカハシ社長の南国奮闘録
第75話 年輪経営
時おり、ある食品工業の会長からご指導をいただく。完全にマスターしたわけではないが、多くの学びを得させていただいている。そうした中、心掛けている経営スタイルがある。
会社の継続に必要なことは、規模の大きさや資本金の多寡ではなく、調和を保ちながら着実に、一年一年、年輪を重ねるように成長していくことである。そういう経営をしているかどうかが大切だ。
会社が生き残っていくには、販売計画、外部環境に順応した商品開発、マーケットの研究、卓越した独自性、優秀な人材の確保、社風づくりと社員満足の向上、お客様に対する信頼の積み上げ、社会貢献、改善活動など、ありとあらゆる要素が必要だ。
どれもこれも一朝一夕に出来るわけではないし、もし何かが突出していれば、調和を試みなければどこかで崩れてしまう。小さな町工場が消えていくのは、年齢という調和がとれなくなって、待ってしまうからだ。
会社が大きければ大きいほど問題もでかくなる。監視システムが働き、解決する術も力も持ち合わせている超大手メーカーでさえ、調和が崩れれば経営が危機に瀕してしまうことがある。でも、無くすわけにはいかない。なぜなら、それほどの影響力を持つブランドの会社はすでに世の中の調和の一部となっているからだ。調和力が会社の存続を左右する鍵と言っても過言ではない。
私たちバブル後期の世代は、競争の中で勝ち残ること、競合と戦うことが常識だった。でも、これからの時代、どうやらそれでは長続きしないようだ。
争い、競い合って事業を行うよりも、無い物があれば他の物を受け入れ、他に無い物を提供して相手を満足させる。出来れば先に他を喜ばせることが大切だ。
盲己利他(もうこりた)の精神である。もちろん自立し合っていることが前提だが、相手の成功や満足を考えていれば依存体質にはならない。それがわかり合える相手(企業)とパートナーシップを結ぶことが必要だ。その良い土壌の上に年輪経営は成り立ち、未来につながるBCP(事業継続計画)が可能となる。
最も難しいのが自らの成長だ。考え方を理解することは誰でもできる。しかし、良いと思ってもそれを実践することは容易ではない。そういった行動や言動は、習慣づけないと身に付かないからである。
冒頭の食品会社の会長は、少年期に絶望的な病の淵で人間を学んだという。会長は、いつもこう諭してくださる。
「あのね、忘れちゃあいけないよ。人はみな幸せになりたいということを」
「企業はね、急成長させてはいけないよ。売上は伸び過ぎないように抑えないとね」
BCPを進めるために外部環境を自ら整え、強靭な経営体質を作り上げる近道は、人を幸せにするための経営をすることである。
私には、まだまだタイでしなければならないことがたくさんあるようだ。