タイ版 会計・税務・法務
【第86回】 リース取引と源泉税について
Q:弊社は機械のリースを利用しているのですが、今般リースに関する源泉税の取り扱いが変わったと聞いたのですが、どのようなものでしょうか?
A:それは5月10日に発表されたDepartmental Regulation(歳入局規則)Taw. Paw. 259/2559により、6月からの支払いについて変更がされたもので、結論から申し上げますと、これまで源泉税5%の支払いが免除されていた一部のリース取引について、5%の源泉を行わなければならなくなるものです。以下では、タイにおけるリースについての税金について、少し解説させていただきます。
まず、リースの収入については、税法RC§40(5)(a)に規定する資産の賃貸による便益に係る賃借料に分類され、この賃貸収入に関する源泉徴収については、歳入局規則Taw. Paw. 4/2528の中で、原則として5%の源泉徴収を行うことが義務付けられています。ただし、同条文の中で、以下のような大手リース会社が行う企業間リースに合致する場合については、源泉が免除されると規定されていました。
1)賃貸人が、6千万バーツ以上の資本金を有していて、VATの登録納税事業者であること。
2)賃借人は、法人であること。
3)リース期間は3年以上であること(ただし、リース物件が他のリース案件からの借り換えである場合を除く)。
また、2009年に出された歳入局規則Taw. Paw. 176/2552においては、リースの定義について、“リース期間の終了時において、賃借人がリース物件を買い取るか、賃貸人に返還するかの権利を有しているリース”とし、上記1)~3)の条件が該当して源泉税徴収免除となる規定するリースは、いわゆるファイナンスリースのみであるとの制限を加えました(したがって、オペレーティングリースは源泉税の対象となっていました)。
今回新しく出された規則は、この源泉税の免除規定をすべて取り払ったもので、やや乱暴ではありますが、6月以降のリース料金の支払いから、賃借人はリース料の支払い時に5%の源泉税を差し引き、これを税務署に支払うことが義務付けられることになります。
源泉徴収税は、所得税の前払いとも言えますので、リース会社の損益計算書には直接は影響してきませんが、一方で以下の影響が考えられます。①リース料の5%が差し引かれることになるので、リース会社のキャッシュフローに影響をしてくる、②税引前利益率が売上高比で25%以下の場合には、前払い源泉税が累積することになり、また、税金還付請求の手続きを踏む必要がでてくる。(例;リース料収入(売上)を100とし、法人所得税率を20%とすると、源泉税で5がとられる一方、法人所得税は25X20%=5となり、25の税引き前利益がないと、源泉税をとりかえせないことになります)
単純な比較はできませんが、日本におけるリース業界の利益率は5~10%前後といわれておりますので、今回の5%の源泉税の免除停止処置は、資金を調達してリースで運用をする大手リース会社にとっては大きな負担となると考えられ、その影響がどのように賃借人におよぶのか、予断を許さないところです。
今後取り上げてほしいというようなテーマがございましたら、参考にさせて頂きたく存じますので、下記のEmail宛にご連絡頂戴できますと幸いです。
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著者プロフィール
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク ディレクター
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
2016年7月