タイ版 会計・税務・法務
【第96回】 タイの高齢化社会と会計・税務について
Q:弊社は進出して約20年になるのですが、従業員の高齢化が目立ってきています。会計・税務の点での留意事項はありますでしょうか?
A::日本に比べると、平均年齢が低いことや(タイ;38歳 / 日本;46.5歳)、バンコク市内に他の地域から流入してくる若年労働者が多いため、あまり気にならないかもしれませんが、実際のところアセアンにおいて、タイはシンガポールに次いで平均年齢が高く、出生率も日本と同程度に低いため、かなり高齢化社会を迎えてきている国であると言えます。また、日本とは異なり、高齢者が必ずしも健康でないことや、年金等の社会保証制度が整っていないこと、会社の定年がまだまだ低いこと(55歳定年のところも多く見られます)から、高齢化社会を見据えて様々な手が打たれようとしています。そうした中で、関連する会計・税務について紹介させていただきます。
まず、定年退職についてですが、タイの法律上、私企業に関する定年退職制度を認める法律がないこともあって、定年退職は法的には解雇と理解されています。そのため、労働者の定年退職については、解雇補償金の支 払いが必要になります。これに関連して、監査の際に“退職給付金積立”が問題になるケースがあります。
最近、タイ会計士協会は“会社が定年退職の年齢を明確に定めていない場合には、退職給付義務は存在しないので、退職金引き当てを認識する必要はない”との見解を発表しています。つまり、定年退職制度のない会社においては、定年を理由とした退職金支払い義務の発生がないため、このような形と会計処理となります。(そのかわり、そもそも定年を理由とした解雇は難しいことになります)一方、ほとんどの会社は定年退職制度を就業規則等で定めていると思いますので、その場合には当該制度に沿った退職給付義務と必要な引当をすることになります。
加えて、最近は税制の面でも高齢者の雇用を促進するような優遇が導入されました。政府の発表によりますと、60歳以上のタイ人を雇用している場合、その雇用にかかる費用(給与や福利厚生(社会保険は除く)等の費用)について、一人当たり、かかった費用の倍額までの追加税額控除を認めるというものです(ただし、一人当たりの費用は15,000バーツ/月である等、適用に際しては様々の制限があります)。つまり、高齢者を雇用した場合には、実際の支払いや会計上は、15,000バーツの費用であるのに対して、税務上は30,000バーツの損金として扱えるので、一カ月一人当たり3,000バーツの節税(追加の15,000 X 20%)となります。ある意味で一カ月当たり約一万円程度の補助金が出ているのと同じ効果とも考えられます。
確固とした財政基盤がなく、また社会保障制度の整っていないタイにおいては、これからも様々な形での高齢者の生活安定の方策が打ち出されてくるものと思います。当地に進出されている日系企業も、従業員の高齢化の問題と合わせて、色々と制度が変更されてくることに対する対処が求められると考えます。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
著者プロフィール
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
2017年6月