泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第21回 『就職企業とTNI卒業生の声』
タイでのものづくり教育を進める私ども泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回は前号に関連し、3期にわたるTNI生の就職企業と、そこで働く彼らの意見をご紹介します。インタビュー調査では、会社はまず何を大卒者に期待しているか、日・タイの工業高専卒の違いなど改めて教わることが多くありました。
会社の声:(15社36人のご意見をまとめました)
- TNI卒業生は、専門・語学・組織対応力など、一般の大学に比して基礎力があり、工場など現場で覚えるのが早い。一方、IT(情報技術学)ではプログラミング基礎、CE(コンピュータ工学)はハード面を、PE(生産工学)、AE(自動車工学)はCAD/CAMをより充実してほしい。BJ(日本語経営学)もロジスティックス、POSの基礎を充実して欲しいとの意見。
- 専門などについては大学では基礎段階であり、まずやる気(取り組む姿勢・態度)が重要で、これが後の成長の源になる。TNI生はこの面で優れている。
- 他大学の語学専攻者は、語学は出来ても会社に必要な専門力が弱く、会社実務に対応できない。
- 工業高専の日タイ格差:タイの工業高専卒は日本に比べ、数学、思考力などレベルが落ちる。タイ社会(企業)は技能評価が低く、検定制度もなく、給与も低い。階級社会ゆえか、自分はそこまでと考えるものが多く、現場リーダー止まりになる。それが原因か成長も期待できない。
- TNI出身者の場合、考える力があり、将来の幹部として期待できる。
- 技能実習者派遣機関を経て日本で3年技能実習後、帰国した者は、日本語3級資格を持つものが多いが、上記(参照)の壁が大きく、エンジニアとしての思考力などは、あまり期待できない。
- 過去TNIの工学部の場合、日本語は1-2年次で教えるだけであったが、会社の要請に応え、今は3-4年次でも日本語授業をとれるようになったのは良い。語学はブランクがあると下手になるので更に充実してほしい。(なお、工学部の日本語必須単位は当初の3単位から5単位に強化されました)
- タイの一部の有名大学では現場向きの人材を育成してくれるが、TNIではさらに語学面や日本文化面でも対応してくれて、より日本のビジネス環境に適した状態。
- 日系企業大手は英語が共通言語化し、英語力向上を期待している。TNI生は、TOEIC500点を切る場合があり、さらなる英語力強化を。一方、TNI生は日本語も充実してほしいとの声。なお昨年11月にインターン研修を履修する3年生に実施した学内TOEICテストでは、受験者の28%に当たる574人が600点以上の成績です。
- BJ(日本語経営学)専攻者は、日本語力を含め、コミュニケーション能力とチームワーク能力が高い。
- 日本に派遣して訓練するには、日本語力N3を期待。一方、HIDA(海外人材育成協会)は補助金と日本研修支援制度を提供し、日本語も訓練してくれるので、この制度を利用して半年以上の日本訓練を実施している。なお、学内の日本語能力試験では、N4級合格相当者は受験者の6%に当たる373人が、N3級合格相当者は63.4%に当たる116人が合格しています。また少数ですが、N2・N1合格者もいます。
- IT、BJなどもビジネスと直結するのでビジネス知識や、工場見学の機会を設けてほしい。ITは2年で技術が変化するので、産学連携し、企業協力でOOP(Object-oriented programming)やコンピュータ言語の先生・学生指導にご協力いただける由。
☆調査にご協力いただいた会社:前号に続く8社をご紹介します。
会社名と主な事業、卒業生はニックネーム・専攻・卒業年次を、会社の方は名前・役職のみの紹介です。
⋆略称:AE=自動車工学、PE=生産工学、CE=コンピュータ工学、IT=情報技術学、IM=工業経営学、BJ=日本語・経営学
TNI卒業生の声:(15社39人の意見をまとめました)
- TNIで専門、組織、語学を学び、ビジネスに対応できて良かった。日本企業のビジネスマナー、仕事のやり方、例えばホウレンソウや問題解決など、企業文化を教えてくれて良かった。
- 短期であったが、日本の提携大学や教育機関に留学し、日本語、日本生活、文化を理解したことは効果的であった。また交換留学で、からくりや学生フォーミュラ・プロジェクトに加わり、制作・チームワークなど多くのことを学べた。
- 地方出身者にとって奨学金は特に重要で、お蔭でTNIで学べ、希望の仕事につけた。いっそうの奨学金充実を期待したい。
- インターンシップやジョブフェアは、(日本の)会社を知る良い機会で、さらに充実してほしい。
- TNIには日本企業・文化に憧れて入学、日本語や日本の企業文化の学習をさらに充実してほしい。
- 日本語をもっと勉強したかったが、出来なかった。特に3-4年次にも継続する必要がある。TNIは日本人講師の割合が多い利点があるが、もっとネイティブと話したい。
- AEC2015を控え、英語は共通言語としてより充実させてほしい。
筆者:吉原秀男(Yoshihara Hideo) 泰日工業大学(TNI) 学長顧問