タイ版 会計・税務・法務
【第98回】 労働者保護法の改正(就業規則の届け出)について
Q:今般、タイでの就業規則の届け出に関する労働者保護法の規定が改正されたと聞いたのですが、どのようなものでしょうか?
A::これも前回解説させていただいた、タイの国家平和秩序維持評議会(NCPO)の通達NCPO No. 21/2560において改正された点に含まれている項目で、労働者保護に関するものについて改正されたものです。ちなみに、今回の通達はタイでの事業環境の改善を主眼としたもので、民商法典、労働者保護法、上場企業法、社会保険法、と広範囲における改正が行われていますので、本稿においても比較的影響が大きいと思われるものを中心に解説させていただければと思います。
さて、ご照会のあった就業規則についてですが、タイの労働者保護法において、その108条では、もともと①10人以上の従業員を擁する雇用者はタイ語において就業規則を制定しなければならない(規定が必要な内容後述)、②10人以上になった日より15日以内に就業規則を施行する。また施行より7日以内に労働局に対してコピーを提出する、③労働局は就業規則が法律に反する場合、修正することを命じる権限を有する、④就業規則は会社内で公表され従業員が閲覧できるようにされなければならない、と定められており、また、110条では改定された場合も労働局に届け出をしなければならないとされておりました。今回の通達では、この108条の②(および110条の関連部分)で、「労働局へのコピーの提出」が免除されることになりましたので、今後は就業規則を労働局に提出する必要はありません。
ただし、あくまで労働局への提出が免除されただけですので、10人以上になった場合、当該108条の規定の他の部分に沿って、就業規則を作成することが必要です。この108条①では就業規則は「タイ語」で作成され、かつ最低規定されなければならない事項として、1)労働日や労働時間、休息時間、2)休日の規定、3)時間外、休日労働、4)賃金支給日、5)休暇取得、6)会社のルールや懲戒規定、7)苦情申し立て、8)解雇、補償及び特別補償、があげられています。
また、上記108条④のように従業員に公表することも必要とされており、改定した場合も110条に従って従業員への公表が必要です。加えて、10名以上の従業員を擁する場合には、労働者保護法112条に規定されるように、被雇用者登録簿の整備も義務付けられています。このように従業員が10名以上となった場合には、たとえ今回の改正で労働局への就業規則届け出義務が廃止されたといっても、労働関係の書類についての整備義務が発生しますし、従業員との雇用関係を健全に保つため、また質の高いコンプライアンスとモラルを維持するためにも、「雇用契約書」「就業規則」「従業員台帳(被雇用者登録簿)」は、10名の従業員の雇用をされているかどうかにかかわらず、できれば会社設立時よりきちんと備えておく方が良いかと考えます。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
著者プロフィール
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
2017年7月