タイ企業動向

第24回EEC開発めぐる明と暗

バンコクの東約100キロから南東約170キロのエリアにかけて広がる東部経済回廊(EEC)。タイ政府は当該地域を産業の高度化政策「タイランド4.0」とリンクさせ、積極的な投資と企業誘致を進める計画でいる。これに伴い国内の工業団地運営各社をめぐってはEEC域内で事業展開を行う会社が大幅増益となり、それ以外の会社や地域と明暗を分ける結果が鮮明に。新たな需要を取り込もうと日系ほか民間企業が東部進出を目指す動きも広がっている。EEC投資はタイ経済牽引の起爆剤となるのか。開発がもたらす明と暗が今回のテーマ――。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

 

今年上期(1月~6月期)の工業団地関連7社の決算は、政府が進めるEEC開発の成果を如実に反映したものとなった。域内で事業展開するロジャナ工業団地、WHAコーポレーション(傘下のヘマラート・ランド&ディベロップメントが担当)、アマタ・コーポレーションの3社が大きく利益を上げたのに対し、EECを地盤としない他の4社は大幅な減益か微増に低迷。影響は明らかと言えた。

政府はEECエリアでのインフラ整備や投資を加速させるために、新会計年度(2017年10月~18年9月)予算に120億バーツを超える関連投資予算を計上。前年度から3分の2以上も増額させた。大規模なインフラ整備を伴うことから長期開発計画と位置づけており、そのための特別法(EEC法)も整備する計画でいる。

このうち港湾では、タイ最大のチョンブリ県レムチャバン港が拡張整備されるほか、ラヨーン県マプタプット港の新ターミナルがこのほど完成、鉄くずなどの大型積載船の接岸枠が増加した。空の玄関口となるウタパオ空港(ラヨーン県)でも拡張に約22億バーツが投じられ、整備士や操縦士の研修センターの開発に充てられるほか、保守点検施設の建設に向けられる。これにより2021年までの旅客収容能力は現行の年300万人から1500万人に引き上げられる見通しで、首都圏第3空港の位置づけが明確化する。高速鉄道やインフラなどの整備も進められる。

民間企業の動きも積極的だ。EECエリアを中心に工業団地を手掛ける業界大手ヘマラート・ランド&ディベロップメントでは今年からの2年間で新たに約200億バーツを投資する計画でいる。チョンブリとラヨーンに新たに工業団地を整備。タイ政府から支援の受けやすい航空部品やデジタル、医療などの先端産業の企業誘致を進める考えだ。同社は今年2月に「ヘマラート・イースタンシーボード工業団地4」(総面積1870ライ、1ライ=1600㎡)をオープンさせたばかり。相次ぐ投資は手応えを感じている証でもある。

業界3位のアマタ・コーポレーションも、チョンブリ県アマタナコーン工業団地で進める最先端産業集積エリア「スマートシティ」の開発に並ならぬ意欲を見せる。10月にはスウェーデンの航空防衛企業サーブと「エアロスペース」開設にかかる覚書を締結。航空機部品の工場や操縦士養成施設の建設を予定する。航空業界をめぐっては、欧エアバスと米ボーイングの両社もEEC域内に部品の供給施設や訓練施設などを検討しており、当地がタイにおける航空市場の先端基地となる可能性がある。

 

一方で、EEC地域ばかりが恩恵を受ける事態に、不信や不満を抱える企業や地方も少なくない。中でも、2011年時の大洪水で被害を受けたバンコク北郊パトゥムターニー県やアユタヤ県にある工業団地のトップは、洪水以来の強い危機感を隠せないでいる。

このうち、業界中位のナワナコン工業団地(パトゥムターニー県)では当初計画していた商業施設の開発を先延ばしし、通信設備企業のALTテレコムと連携。全域で光りファイバー通信網を整備する方針を打ち出した。光回線はタイではまだ大規模な普及に至っておらず、IT関連企業など大容量データを使用する企業を確保したい考えだ。そのほか、中部にあるその他の中堅工業団地もそろって政府の東部優遇策に批判的だ。

EEC開発に先立ってタイ政府が打ち出していた国境経済特区(SEZ)構想の関係者も複雑な心境でいる。同構想では国境に位置する計10の県が指定され、地方発展の切り札になるはずだった。ところが事業着手も束の間、投資のスピードは鈍く、展望が見えない状態が続いている。このうち、カンボジアとの国境に位置する東部サケーオ県では、15年当初から始めた投資申請で認可を得られた事例がわずか3件に止まる。環境影響評価の影響などとされているが、同県のSEZは約660ライもあり、今後の見通しに不安が大きくのしかかる。

サケーオと同様にSEZの第1期に指定された南部ソンクラー県でも629ライの用地が事実上宙に浮いた状態となっている。造成開始は来年後半以降。農産物やゴム加工の関連企業を誘致したい考えだが、使用料が高止まりでネックとなっている。入居の見通しは立っていない。

 

対照的にEEC域内をめぐっては、日系企業の駐在員らを当て込んだコンドミニアムなどの不動産開発などの動きが盛んとなっている。東急電鉄、レオパレス21、JALUX、ステイJIAキャピタルといった日本でも知られる開発業者が先を急がんばかりにチョンブリ県シーラチャー周辺で建設計画を進める。その姿はさながらバブル経済時の投資ブームのようにも映る。

このほか倉庫各社なども新たに東部に拠点を抱えようと投資を明らかにしている。国営タイポストの物流進出も固まった。タイ政府の肝いりで始まったEEC開発。明と暗を鮮明にしながら大きく動き出そうとしている。(つづく)

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