タカハシ社長の南国奮闘録

第56話 先人の教え

工場は常に余地をあけておけ!

これは親父の友人からの教えだ。タイ工場はこの教えの通り、仕事のあてもないうちから隣の工場スペースを抑えた。おかげさまでまだ若干のスペースはあるが、ほぼ埋まってきている。

使ってない機械があれば、二束三文でも放り出して空きスペースを作り、新しい仕事に備える。要するに箱(工場)が売上の規模、器を決めるのである。ただ、1年経っても埋まらないのであれば、ニーズ・マーケットとコア・コンピタンスがマッチしていないか、たまたまお客様が工場を見る機会がなかったということになるだろう。

ものづくり生産工場の場合、走り回る営業より、お客様のイメージにあった工場作りが大切だと思う。つまりお客様が仕事を決めるのだ。QCD、納期、コストがさらに厳しく求められる中で、お客様に必要とされるサプライヤーでなければならない。その上、新しい仕事を受注するには常に生産余地のキャパが求められる。それに対応できるかどうかということだ。

こちらの勝手な思いで提案しても、上手くいく確率は低い。実は弊社にも苦い経験がある。タイに来る前、日本でイメージして機械を持ってきたのだが、そのほとんどが空振りに終わり、中古機械として出荷することになってしまった。大物加工ができるマシニングセンター、単品高精度加工を行う研磨機、ワイヤーカット機などなど、全く使うことなくホコリをかぶってしまった。かなりの授業料となった(涙)。

同じチャンスを作るのであれば、工場スペースを空けておくことの方がリスクは少ないということが、やってみてわかった。しかも無駄がなく効率が良い。当然ながら、もったいないという気持ちもある。しかし結果は、先輩の教えが正しかった。

同じことが日本でも起きた。テクニア日本の郡上工場は、4000坪の土地に第一工場という形で昨年9月に竣工したばかり。そのちょうど1年前には工場の2割分の仕事しかなかった。しかし工場の完成前には他のメーカーからの依頼もあり、8割分の仕事が決まった。その結果、今では物の置き場もなく、テント式の資材置き場か第二工場に着手しなければならないほどになった。

もしその仕事がなければ今頃どうなっていたのだろうとゾッとする。

本当にありがたい話だ。これは先人の正しい知恵なのだと思った。あとは信じるしかないし、後がないので営業するしかない。夏休みの宿題同様、追い込まれないとできない自分の性格がものを言っているのかもしれない。兎にも角にも鈴木先輩の教えに感謝!

嬉しいことに、東南アジアの製造業の景気が上向いていると報じられている。新たなビジネスチャンスが生まれてきそうです。

高橋 弘茂
名古屋市中川区の精密加工部品メーカー『TEKNIA』の4代目。1969年愛知県生まれ。1989年に同社の前身『高橋兄弟鉄工所』に見習い入社。現場経験を積んだ後、『Yamazaki machinery UK ltd』などを経て2001年8月『タカハシテクニア』代表取締役就任。現在はVITPROJECT (THAILAND) アドバイザーを勤めるほか、マネジ個性学コンサルタント(セミナー開催)なども手掛ける。
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