タカハシ社長の南国奮闘録
第63話 虎徹の心
テクニアのものづくりは日本刀、長曽禰虎徹をイメージしている。日本刀は日本のものづくりそのものと言っても過言ではない。日本ほど伝統を受け継ぎ、深い作り込みをしている国を私は他に知らない。
虎徹は今から400年以上前に作られた日本刀で、切れ味鋭く最強であるだけでなく、その美しさから観賞用としても尊重されてきた。新撰組の近藤勇が所持していたことでも知られている。
虎徹という名は、その刀を作った刀工の名である。虎徹は近江を拠点に栄えた鍛冶屋長曽禰家に生まれた。幼少期に関ヶ原の戦いがあり、佐和山城が落城したため福井から金沢に逃れた。戦国時代は武具の中でも鎧兜などを専門に作る名工として知られていた。しかし、太平の世を迎えると武具鎧兜の需要が減ったため、江戸に移って50歳を超えてから刀鍛冶になり、兜や古釘などを溶かして名刀を生み出していった。当初は古い鉄を溶かして武具を作ることから古鉄と名乗っていたが、のちに中国の故事に倣って虎徹と改めた。
虎徹のものづくりは、材料はもとより炭の大きさ、水、時間、湿度、温度すべてにおいて完璧な状態で行われていた。そこからさらに、今を超える刀を作り出すために最後にたどり着いた答えが、くずを混ぜ合わせることだった。現在で言う特殊鋼というものになったと考えられる。こうして美しい波形、背は固く強固、鋭くも刃こぼれしない中に弾力を持たせた日本一の刀が完成した。
このような職人たちの努力は日々、我々の現場で繰り広げられている。一つひとつの製品と向き合い、ものづくりを探求してきたからこそ日本企業は白物家電、自動車、半導体、衛生など様々な分野で優れた製品を世に送り出してきた。その証拠に日本の工作機械は20年以上経ってもびくともしない。
日本の中古機械はタイローカルにも人気だ。ここ数カ月、タイの製造業がにわかに忙しくなっており、日本の中古工作機械をタイローカルが買い付けにきて、20年以上前に製造された機械が中古市場から姿を消している。このように日本のものづくりDNA搭載の製品は、世界中に親しまれている。その力の源泉は、妥協なく探究し続ける現場力に他ならない。
タイであろうとどこであろうと、製品にどれだけ日本のものづくりDNAを注ぎ込めるかが、さらなる発展に繋がる鍵になると確信した。