5G 訪れる新たな未来
今、各国で5Gと呼ばれる通信規格が導入されようとしている。5Gが普及すれば、単にスマートフォンのインターネットの通信速度が速くなるだけではない、大きな産業革新につながる可能性さえ秘めている。一体何が起ころうとしているのか。
5Gに至るまでの通信の流れ
電波とは周波数が3THz(テラ・ヘルツ)以下の電磁波のことを総称して言う。紫外線や赤外線も電磁波の一種だ。電波の速度は秒速約30万キロメートルで、1秒間に地球を7周半できる計算になる。
GとはGeneration(世代)の意味で通信規格の変化を表す。5Gは第5世代移動通信システムとも言われ、文字通り1G、2G、3G、4Gに次ぐ通信規格となる。数字が増えるたびに、通信技術の進化が盛り込まれ、速度、品質などが向上してきた。これまでの歴史を振り返ってみたい。
1Gは、日本では1979年に当時の日本電信電話公社が自動車電話サービスを開始したのが始まりと言われる。民営化後は、車外兼用型自動車電話となったショルダーフォンへと受け継がれていったが、音声をアナログ信号に変調して通話を行うアナログ方式で、通話のみの機能だった。一般には普及せず、主にビジネスシーンで利用されていた。
1993年に日本で登場したのが、音声をデジタルデータに変換するデジタル方式を採用した携帯電話。これが2Gにあたる。Eメールの送受信もできる機種が生まれ、日本では携帯電話が急速に普及していった。
2000年に入って、電気通信に関する国際標準を策定するITU(国際電気通信連合)によって定められた「IMT-2000」標準に準拠したデジタル携帯電話が3Gとなる。それまで携帯電話のシステムは各国、各地域で異なる周波数、方式で利用されていたが、3Gによってある程度統一され、基本的には一台の携帯電話を各国に持ち歩いて使える時代に入った。また、日本ではインターネット接続サービスの「i-mode」が1999年から始まり、3Gの普及と共に拡大。3G時代に、携帯電話のインターネット環境が整ったといえる。
3Gの発展型としてITUが定めた通信規格IMT-Advancedに準じるのが現在主流の4Gとなる。通信速度は最大110mbps~1Gbps、3Gに比べて高速、大容量、低遅延を実現した。ウェブサイトや動画の閲覧、配信などが可能になり、スマートフォンに代表される携帯電話のマルチメディア化が大きく進んだ。
そして5Gは、4Gの次なる通信規格ITU-2020に準じたもので、現在、世界各国で実用化が図られている。5Gは4Gからさらなる高速、大容量、低遅延そして超多端末接続が可能になる。まず高速大容量化。4Gに比べて20倍の最大20Gbpsとなり、4Gで数分かかっていた2時間の映画のダウンロードが3秒でできるようになる。手元のスマートフォンで光回線並みの通信速度が得られるようになる。遅延は4Gの10分の1の1000分の1秒以下となる。さらに、基地局1台から同時に接続できる端末数が100万台/平方キロメートルと、従来の10倍となる。スポーツ観戦やコンサートなど、多くの人が集まるイベント会場で携帯電話がつながりづらくなる現象があったが、そういった問題が解消されることになる。
5Gが産業界に与える影響
こういった特徴を持つ5Gを活用して、新たなサービスが実現する可能性がある。例えば、医療分野。5Gによる高精細な映像伝送を活用し、都市部と遠隔地の医療機関を結び、都市部の医師が遠隔地から送られてくる精細な映像をもとに患者を診断することができる。エンターテイメント分野でも、精細な映像とAR(拡張現実)、VR(仮想現実)を組み合わせれば、離れた場所に居ながらまるで会場にいるような感覚が味わえるなど、従来にないスポーツ観戦が楽しめる。
建設分野でも、建機にカメラを取り付け、5G回線を使って遠隔操作または自動操縦すれば、省人化につながる。Wi-Fiではカバーエリアが狭いなどの問題があったが、5Gなら広い範囲をカバーできる。さらに警備分野。4Kカメラの鮮明な映像も5Gなら伝送でき、超低遅延なのでリアルタイムで監視可能となる。これにAI(人工知能)を合わせれば、異常事態の瞬時の把握や不審人物の発見などにつながる。
大きな可能性を秘めているのが自動車。近い将来実現が期待される自動運転は、自動車に搭載されたカメラやセンサー、さらにAIによって周囲の状況を分析し、動きを制御する。さらに、周辺のインフラや他の車両とも相互にデータのやり取りが行われる。その過程で発生する膨大なデータの通信に、超高速、低遅延の5Gがうってつけとなる。さらに自動運転に必要な、リアルタイムの交通状況などを反映した高精度な3次元地図であるダイナミックマップの作製にも5Gの活用が検討されている。
IoT(Internet of Things)は、すべてのものがネットワークでつながり、これまでにないサービスが生まれるとされる。5Gはその重要な基盤となる。5Gによる経済波及効果は関連産業含めて日本で46.8兆円、世界で約12兆ドルとも言われている。
今では身近な存在となったスマートフォンも、さらに大量のデータが高速で通信できるとなれば、その形が大きく変化する可能性がある。
5Gに向けた日本、タイの動き
日本では総務省が今年4月、NTTドコモ、KDDI/沖縄セルラー電話、ソフトバンク、楽天モバイルの4社に5Gの周波数帯を割り当て。ただし、認定から5年後までに全国及び各地域ブロックの5G基盤展開率が50%以上になるよう理論上最速10Gpbs程度の通信速度を有する回線を使用する5G高度特定基地局を開設することや、認定から2年後までにすべての都道府県において5G高度特定基地局の運用を開始することなどを求めている。5G基盤展開率は既に4社は50%を越えている。各社とも2020年の東京オリンピックを前に一部でサービス開始を予定している。
一方、人口の2倍近い携帯電話契約者数を抱えるタイでは昨年、AISとTrueが5G通信試験をバンコクでそれぞれ約1カ月行った。2Gのサービスは今年10月末に打ち切られる予定だ。AISは4月に5Gを活用した自動運転車の開発に成功したと発表している。さらに中国のハーウェイらが今年に入って5Gのテストベッドをチョンブリ県に設置したものの、まだ5G用の周波数の割り当ては行われていない。True、AIS、DTACといった大手携帯電話会社が通信インフラへの投資に足踏みしているためだ。4G向けに獲得した周波数の落札額の残額が3社合わせて数百億バーツにのぼり、今年4月、政府は落札額の残額を納付する期限を5年延長する代わりに、5G用の周波数を獲得させる措置を導入した。3社とも適用を申請している。政府は当初、2020年の5G商用スタートを目指していたが、実現は不透明だ。
携帯電話は近くの無線基地局と通信する。無線基地局同士は有線ケーブルでつながっている。5Gを普及させるためには、新たに通信インフラを整備する必要がある。そこで高いシェアを誇るのがファーウェイだ。アメリカのトランプ大統領が、国家の安全保障上の懸念から国内の5G整備においてファーウェイの機器の排除を表明したことは記憶に新しい。
ともあれ、5Gの基地局がタイの津々浦々に整備されるまでまだまだ時間がかかりそうだ。ただ、一歩ずつ歩みを進めていることは間違いない。大きなイノベーションにつながる期待がかかる。
(2019年7月号掲載)