世界市場の3分の1
成長する中国の金型産業
中国国務院では2015年9月に「中国製造2025」(中国製造2025重点領域技術路線図)を発表した。新中国が成立して100周年にあたる2049年に世界最強の「製造強国」になることを目指し、その一環として製造業の基幹産業と言える金型を重視している。
最近、中国にとって最大の金型輸出国である米国が、金型に対しても25%の高関税をかけたことから、米国向けをメインに取り組んでいた中国の金型メーカーが軒並み苦境に陥っている。しかし、全般的には世界最大の製造、消費大国である中国の金型産業に自信と誇りが増している。国際金型協会(ISTMA、本部ポルトガル)発表によると中国の金型市場(売上高)は2017年に2,433億中国元、2018年は2,555億中国元で、世界の金型市場の3分の1を占めている。
2018年8月号では、当時の中国金型工業協会(CDMIA)会長のインタビュー記事を書いた。今年も「第19回中国国際金型技術と設備展示会(DIE & MOULD CHINA 2019 = DMC2019)」を取材し、タイに進出中の中国の金型企業数社の取材を進めるなど、引き続き関心を持ち続けている。
6月に上海・虹橋にある国家会展センター(NECC上海)でCDMIAと上海市国際展覧有限会社が中国最大の金型展を開催したが、来年の「DMC2020」(2020年6月10日から14日までNECC上海で開催)に合わせ、6月9日から13日まで、ISTMAが「DMC2020」会場であるNECC内のインターコンチネンタルホテルで、中国で初の総会を開催することも決定した。
今回から上下で中国金型産業の今をお伝えする。
写真・文 アジア・ビジネスライター 松田健
輸入は全消費税の5%- 中国金型工業協会幹部
中国金型工業協会(CDMIA)の「DMC 2019」でも、中国の国家目標である「中国製造2025」と共に、「一帯一路」を強く意識し、昨年と同様に同テーマによる国際金型産業フォーラムが開催された。今回はとりわけ中国とブラジル、ポルトガル、スペインが力を合わせて、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)、近隣諸国、欧州の金型産業の連携、国際的な調達マッチングの強化を図ることを中心テーマにしていた。
「金型のスマートデザインと自動化生産応用モデル」「金型加工設備における高品質と効率の発展」をテーマにした技術セミナーには世界から多数の講師が参加、その並行フォーラムでは日本企業から講師としてDMG MORIと北京のファナックが参加した。金型熱処理技術、自動車ボディ用金型の国際化、切削技術の応用と効率が高い工具、積層造形、レーザー加工での交流会、技術応用フォーラムも開催された。
CDMIAの秦珂秘書長はインタビューに応じ、「CDMIAは設立35年の伝統があり、中国の金型業界と共に歩み、国際金型展であるDMCも30年以上の実績を積み上げてきた。DMCは今後も中国で最も専門的な国際金型展として開催し続ける」と語った。秦秘書長も2020年のDMCに合わせて国際金型協会(ISTMA)の第16回世界大会(後編で詳しく紹介)が中国で初めて開催されることに大きな期待を抱き、既に準備を進めていると説明した。
秦秘書長によれば「中国の金型輸出は好調で2018年は60億米ドルを超え、世界201カ国・地域に拡大した。輸出先は1位米国、2位フランス、3位香港(経由)、4位日本という順位はこのところ変化していない。一方で中国の金型輸入は中国の金型全消費額の5%にまで縮小してきた」という。秦秘書長は次世代通信技術である「5G」が今後の金型の設計変更などに劇的な向上を生むと期待した。
今回の「DMC2019」に合わせて開催したCDMIA第8回理事会の内容について、秦秘書長はCDMIAが初めて複数の会長を持つことが決まったと明らかにした。CDMIAの活動の広がりに対応できるようにプラスチックと金属プレスのそれぞれの業界から新会長を選出し、委員会活動の調整、金型輸出の重要企業に与える資格、「優れた金型職人百人」の称号授与などについても話し合ったという。
日本の金型業界が縮小している点について秦秘書長は「中国の金型輸入額は減少の一途だが、それでも2018年の中国の金型輸入の1位が日本で、かつての韓国を追い抜いている。中国の金型製造では圧倒的多数が日本製工作機械を使っているが、日本の金型産業は優秀な工作機械メーカーとともに高い競争力を維持している」との見方を示した。
また、(1)技術革新が必要な金型、(2)複雑で難しい金型、(3)長年の経験による高い技術ノウハウの蓄積を基礎とした金型を製造している限り、日本の金型業界は生き残る、と秦秘書長は見ている。秦秘書長がかなり日本贔屓(ひいき)であるのは、子息を日本に留学させていることも影響しているのかも知れない。
EVよりもHVに注目
秦秘書長は今後、金型で生産できない複雑形状の加工が増えると見ており、3Dプリンターに注目している。「今回の会場でもソディックが展示した3Dプリンターに注目した。金型の軽量化にもつながると感じた。日本製の機械やツールは欧州製に比べて競争力が高く、レーザー加工でも日本が世界最先端を走っている」(同)と評価する。
自動車のドアなどボディがアルミやエンジニアリングプラスチックに入れ替わって軽量化が進むことから、アルミダイカスト部門もさらに発展すると語った。だが中国の自動車のEV(電気自動車)化について否定的で、「メディアがEV化の進展が間違いないと安易に書いているが、私はハイブリッド車が現実的だと見ている。上海を見てもらっても分かるように、ほとんどの人がアパート、マンションに住んでいる。車の充電場所もない現状でどうして電気自動車が普及しますか?しかし公共バスに限っては電気バスだけになる」と予想した。
「DMC2019」は上海の国家会展センター(NECC上海)の10万平方メートルのスペースを使い、世界20カ国から1,500社の企業が参加して盛大に開催された。来訪者は圧倒的に若い世代が多く、女性の姿も目立っていた。有名な日本企業のブースに日本人の姿は見かけず、いても一人だけといったブースが多かった。中国人スタッフが対応に追われていた。中国で操業する日本企業では現地化が進んでいるということになるのだろう。
技術評価は文系の筆者にはできないが、放電加工機や5軸加工機を出展している中国ローカルのブースでは、中国人技術者や購買担当者が中国製ハイテク機について質問攻めしている風景を多く見かけた。秦秘書長も中国の放電加工機メーカーなどの名を挙げ、「中国製機械の品質が世界標準に達したところが増えている」と評価した。
技術力で日本を超えた⁉︎超日目指した金型企業
「DMC2019」の会場では中国超日模具(チャイナ・スリニ・モールド)のブースで久しぶりに許暁深総経理と話した。日本の金型技術を超えるという目標を込めて社名を「超日精密模具」(www.surini.com.cn)とした経緯について以前、筆者が同社の劉董事長に行ったインタビューで「私は1978年頃に故郷の福建省泉州(チュワンチョウ)で美術を学んでいた。中国で市場経済移行が始まった頃で、当時の中国は日本製品の洪水だった。当時、日本のお菓子の容器がものすごく美しいことに感動し、このような美しい容器を日本以上のレベルで作れる会社になりたいと考えた」と語っていた。ブランド名の「SURINI」はSUN(太陽)の意味がある「SURI」と日本の「NI」を組み合わせたものだと説明されたが、今回の展示会で「当社グループの技術水準は〝超日〟の社名のように日本を抜いた部分が増えている」と許総経理が会場のブースで自慢した。
〝超日〟の許総経理も女性社長だが創業経営者ではない。女性が金型メーカーを起業して成功させた企業として例を見ない、「上海佳谷模具有限公司」を経営する呉雪琴(ウー・シュエチン)董事長は高校時代から今日まで一貫して金型の設計製造販売に専念し、「中国一の金型メーカー」を目指して製造に明け暮れている。
今回出展したブースには同社のインサート金型にピンをロボットで挿入する高速成型機のデモをして多くの見学者を集めていた。「長い間、日本の金型技術に追いつきたいとだけ考えて努力してきたが、この頃は日本の金型工場を見学する機会があっても、技術力で当社の方が上回ったと感じて驚くケースが増えている」と語った。