近隣国で4つの工業団地開発へ ウィクロムCEOが語るアマタの展望
この度、タイとベトナムで工業団地を開発、運営しているアマタ・コーポレーションのウィクロム・クロマディット(Vikrom Kromadit)CEOに単独インタビューした。ウィクロム氏によると、これまでに営業している3カ所の「アマタシティ」工業団地には日系大手を中心とする約1,300社(操業ライセンス取得工場数)が進出しており、「60%以上が日本企業。世界でこれだけの数の日系工場が集積している場所は他にはない」と胸を張る。そのアマタが近くミャンマー、ラオスに初めて進出する。ミャンマーではミャンマー政府が管理する5,000ヘクタール(50平方キロメートル)の用地をすでに手当てしており、ミャンマー政府の投資委員会であるMIC(Myanmar Investment Commission)に工業団地造成の認可を申請中。認可され次第、建設に向けて動き始める。また、「ベトナムとラオスでも今後数カ月以内に新たな工業団地の建設に着工できる」と明かした。
ミャンマーで日本が開発したヤンゴン郊外のティラワ工業団地は現在拡張中の2期工事を含めて500ヘクタール(5平方キロメートル)。それに比べて、アマタがミャンマーで開発を計画しているのは50平方キロメートル。ベトナム最北部クアンニン(QUANG NINH)省ハロン市で近く着工する「アマタシティ・ハロン」は60平方キロメートル。ミャンマー、ベトナムともティラワの10倍規模の広さであり、「工場を中心としたシティ(街)づくりが他の工業団地に対する差別化」と話す。
アマタ・コーポレーションは1994年にベトナムに初進出、ホーチミン郊外のドンナイ省に「アマタシティ・ビエンホア」工業団地を開発した。そして同じドンナイ省でベトナム南部最大の新国際空港の建設が始まったロンタイン(LONG THANH)でも「アマタシティ・ロンタイン」の建設を近く開始する。「マスタープランはすでに完成しており、今後数カ月以内に着工できる」。「アマタシティ・ハロン」に関しても「日本の大手と提携しての開発になる見込みで現在交渉中」と述べた。
中印に挟まれたミャンマーに期待
アマタ・コーポレーションのCEO、ウィクロム氏がミャンマーを重視しているのは、ミャンマーが中国とインドという大市場の中間に位置し、労賃はタイの3分の1、タイと同じ仏教国であり、地方で紛争があっても最大都市ヤンゴンは平和で治安がよいから。これまでにタイとベトナムに工業団地を開発、運営しているアマタにとって、ミャンマーでの初の工業団地は「ヤンゴン中心部にあるシュエダゴンパゴダから24キロほど北に行った場所、現在のヤンゴン国際空港からは10キロほど北に開発する」と語る。このミャンマーの新たな「アマタシティ」工業団地からはパアン、ミヤワディを経由してタイのターク県メーソットまで国道で結ばれている。またこの工業団地はシンガポールと日本の企業連合によりバゴーで建設が決定済みのハンタワディ国際空港と、ヤンゴン国際空港の間に位置する点も気に入って決めたという。「ミャンマーは国をあげての親タイ国であり、タイから投資する日本企業は、日本資本のタイ企業としてミャンマーで歓迎されることは間違いない」。
アマタでは5年以上前からタイのカンチャナブリ県のミャンマー国境であるプーナムロン(ビクトリアポイント)からミャンマーに一歩入ったティキにIEAT(タイ工業団地公社)と組んで工業団地を造る計画を進めていた。だが、NLD(国民民主連盟)の政権に代わって以降、ダウェイ経済特区(SEZ)開発計画が完全に止まってしまったことから、日系企業によるFS(フィジビリティ・スタディ)も終えているティキ・プロジェクトは着工もできないまま眠っている。「中止したわけではないが、ダウェイ開発が進み、深海港の建設が始まらなければ我々がティキを開発する意味がない」としてダウェイ開発の本格的な工事再開を待つ方針。
ウィクロム氏は、ミャンマーはマラッカ海峡を通らずに欧州や新たな市場となるアフリカ、中近東を結ぶハブになれる位置にあると語った。同氏は、現代のシルクロード経済圏構想と言われ、中国の習近平政権が進める「一帯一路」計画はタイを含む東南アジア各地に今後大きな経済的影響を与えることが必至であり、中近東の原油を中国にパイプライン輸出するミャンマー西部のチャウピューと雲南省の間で今後は道路や鉄道建設などが進むなど、中国との関係が深まると考えている。しかしチャウピューがあるラカイン州では現在、イスラム教徒のロヒンギャ問題を抱えている。ウィクロム氏は「タイ南部ではイスラム教徒が仏教徒を狙うテロ活動が長年続いている。それに比べれば、ラカイン州の問題は国連などの支援も得て早期に解決に向かう」と感じているが、アマタがチャウピューに進出することは「タイから遠すぎてあり得ない」と断言した。
アマタがラオスに工業団地を造ることについて「近く発表できる」と明らかにした。かつては閉ざされた国だったラオスだが、今やタイなど大メコン圏の国々を結ぶ国になっている。「ミャンマー南部のダウェイに深海港ができれば、タイを横断してタイのチェンコーンからラオス、そしてラオスのボーテンから中国に入るルートで中国とつながる」という地理をウィクロム氏は意識しており、その中間にあたるラオスの重要性が高まってきたという。
ベトナム北部では日本企業と共同開発
アマタ・コーポレーションは1994年にベトナムに初進出。ホーチミン郊外のドンナイ省に「アマタ・シティ・ビエンホア」工業団地を開発して多数の日系企業が進出している。さらに同じドンナイ省に「アマタシティ・ロンタイン」を開発する。「マスタープランはかなり以前に完成しており、今後数カ月以内に着工できる見込み」。その近くではベトナム南部最大の新国際空港になる「ロンタイン国際空港」の建設が始まっている。
また、ベトナム最北部であるクアンニン省ハロン市でも「アマタシティ・ハロン」工業団地を近く着工する。中国が近いことがハロンに着目した理由だが、「日本の大手と提携して開発することになる見込みで現在交渉中」であることをウィクロム氏は明らかにした。「アマタシティ・ハロン」は「60平方キロメートルを確保しており、すでに日本の大手建設コンサルタント企業によるマスタープランを策定済」と言う。ハロンにアマタが造る工業団地には「日本製品の人気が高い中国市場を狙う日本企業の他、生産コストが高くなって中国で困っている日本企業も受け入れて行きたい」と構想している。
「アマタシティ・ハロン」ができるクアンニン省の隣であるハイフォン市にはベトナム北部最大の港としてハイフォン港(河川港)があるが、近くに14メートルの深海港であるラックフェン国際港が日本の援助で建設中であり、完成が近づいている。「私がハロン進出を決めた大きな理由の一つもラックフェン港が日本の援助で建設されたからだ。この港へのアクセス道路や巨大な橋も日本企業が造った。これまで私は日本企業の匂いがする場所にしか進出して来なかった。これからもそうするつもり」。
「アマタ」の創業者であり大工業団地を各地で成功させてきた同氏は、工業団地の立地を決める際の他のポイントとして「快適性も含めたロケーションの良さ、人件費や土地代などのコストの低さ、安全性が高いASEAN地域」などを挙げた。
東部経済回廊開発への取り組み
タイ政府はチャチュンサオ、チョンブリ、ラヨーンの3県を対象に「EEC」(東部経済回廊)開発に本腰を入れている。ウィクロム氏は以前から、ベトナム、インドネシアなどではいくつもの経済開発地域があるのに比べて、タイは東部臨海工業地帯からアユタヤなども含むバンコクとその近隣に集中し過ぎていると指摘し、「タイはベトナムに学ぶべきだ」とも言っていた。ウィクロム氏はEEC開発で東部が他の地域に比べてさらに発展する現実を認めた一方、「ベトナムは2,000キロの細長い国土が太平洋に沿っていることから良港が各地にできるが、タイはレムチャバンとマプタプットしか外洋に面している港がない点が地理的に不利」と語った。
アマタグループがタイで構える工業団地「アマタシティ・チョンブリ」(旧「アマタナコーン工業団地」)と「アマタシティ・ラヨーン」はEEC域内にある。(アマタシティ・チョンブリは)「スマートシティを目指してエネルギー省と取り組みを進めている。横浜市の協力なども得ている。EECを成功させるために当社も最大限の努力をしたい」(ウィクロム氏)。「アマタシティ・ラヨーン」ではとりわけ中国企業の進出が増えている。
タイの現政権ではミャンマーやカンボジア、マレーシア国境のタイ側に10カ所のSEZ(経済特区)を造る計画を立て、入居企業の募集もしているが、ウィクロム氏は「国境SEZを考えている地域での購買力は小さく、実現は難しいのではないか」と疑問を投げかけた。 さらにウィクロム氏は自身の去就について「66歳になった。いつか私が死ぬ日が私の引退の日。その日まで働き続けるつもりだ」と語った。