特集 航空機産業 アセアンのハブ目指すタイ政府
今や航空機部品産業はタイの製造業の中で重要な役割を果たし始めた。製造業のニューウェーブを見越して、タイの企業は新たな構想、大きな展望を抱き、実行する態勢に入っている。タイらしい創造性をもって、新たなチャレンジを進める姿勢にある。タイにおける航空機部品産業のスタートが、火花を発するにはなお不透明な環境にはあるのだが、しかしトンネルの出口の光が見え始めたことは誰も否定できない。
ともあれ、事業精神とチャンスを検討するならば、タイは航空機産業でアセアンのハブになれる可能性はなお大いにある。ましてや今、関心が集まっている。とりわけ政府が未来産業(ニューSカーブ)を開発する政策を発表してから、航空機部品産業はタイの製造業の主要な転換点として注目を浴びている。明るい未来を開くニューウェーブの製造業として、航空機部品産業が広く認識されるようになった。当初の驚きと斬新さはまもなく、本格的な準備態勢に変わった。
文・Bussayarat Tonjan
工業相「イノベーションがカギ」
ウッタマ・サワナヨン工業相は次のように語っている「現在、政府はタイランド4.0を実現するため、経済の大きな構造改革を進めています。目的は価値創造を軸とする経済の構築で、イノベーションが重要なカギになります。航空機産業に力を入れる方針が明らかになり、航空機産業開発プランが承認されました。とりわけ航空機修理センターの設置、航空機部品産業の育成の2点が、タイをアセアンの航空機産業のハブに押し上げる焦点になるでしょう。立地面では東部経済回廊(EEC)にあたります。そこでタイの企業にはぜひ、可能性に目覚めて早急に開発を進めてもらいたい」。
政府の狙いはタイに航空機部品産業を根付かせることにある。航空機部品の製造は世界レベルの高い規格をクリアしなければならず、例えば航空宇宙産業の品質マネジメント規格AS9100認証を取得する必要がある。生産工程の高い基準を確立し、品質保証も並行。航空機部品はもとより、航空機エンジン・部品、航空機関連の各種機材・部品の規格、さらには航空機の保全修理関連のサービスの規格を加えて、全体的に世界基準に到達しなければならない。
ウッタマ工業相は「航空機部品の製造および航空機の保全修理におけるタイの大きなチャンスは、そのまま同産業をタイで発展させる大きな可能性になります。タイの航空会社の航空機だけでなく、広く世界各国の航空会社の航空機に対する部品製造、修理サービスを引き受けるものです。技術の変化に適合した最新の対応が期待されます。タイランド4.0を目指すとともに、将来の航空機産業ないしは関連産業のさらなる発展が視野に入ってきます」と話す。
EECに航空機関連産業を集積
チョンブリ、チャチュンサオ、ラヨーンの3県からなるEEC開発をタイ政府は重要視している。「タイとしてはまったく新しい経済特区です。言うまでもないことですが、経済特区の開発はタイの経済発展の重要な基盤になります。インフラが完備された経済特区には、当然ながら多様な各種事業が集まってきます。陸送、海運(レムチャバン港)、空輸(ウタパオ空港)が整備され、エアバス社などは航空機産業の投資とイノベーションを進める重要拠点として、EECに注目しています」。
タイ政府もEECに航空機産業と航空機修理施設、空港を集中させる構想を進める。ラヨーン県のウタパオ空港の整備、ウタパオ空港からスワンナプーム空港、ドンムアン空港を連結する高速列車の敷設などによって、ウタパオ空港はエアバスなどの大型旅客機向けのサービスが拡充するベースが生まれる。「航空機の保全修理センターの建設は自然な流れです。将来のタイの産業は保全修理サービス業が有望になります。最新技術の大規模な施設に、おいてインテリジェントなサービスが提供されることになります。総合的な素材センター、航空機部材・部品倉庫、地方のロジスティクス・センター、素材・科学、規格関連のラボ、試験センター、研究開発センター、技能工訓練学校、航空機技師養成学校などが集中する一大産業区域が形成されるでしょう」。
航空機修理施設のロケーションとしてタイは世界有数の好立地にある。すでにタイ航空の修理部門をはじめ、タイ・アビエーション・インダストリー、トライアンフ・アビエーション・サーヴィセス・アジア、スカンジナヴィアン・エアクラフト・メンテナンスなど航空機修理関連の会社が進出。「加えてタイは熟練技能工の存在、高い修理技術の多様な広がり、アメリカ連邦航空局(FAA)、欧州航空安全局(EASA)の認証をクリアした高い品質など、多くの点で優位に立っています。タイ航空の各モデルの航空機は(モデルごとに20~30機を擁している)社内の修理部門が保全修理を行っています。タイの航空機修理施設の技術レベルは世界的にも高いものです」。
今後も伸びる旅客機需要
一方、パーヌワット・トリヤーンクンシー工業省工業振興局次長は次のように語る。「最近の4~5年で世界の航空事業が飛躍的に発展しました。タイは世界から多くの人がやって来る中核的な目的地になっています。とりわけ、2011~15年の間は年率13.54%で利用客が増え、ローコストキャリア(LCC)が次々とサービスを開始しました」。
この急成長は世界的に見られた現象で、特にアジア太平洋地域が伸びた。エアバスは2016~35年の今後20年間の需要を予測して、旅客機の利用客は年率4.5%で増加すると見ている。大型旅客機の需要の増加を見込み、100人乗り以上の旅客機の需要は合計33,000機と見積もる。アジア太平洋地域は、世界で最も大型旅客機の需要が増える地域となる。
「タイは製造業の確固たる可能性に恵まれた国です。自動車部品製造の高いレベルの実績と経験を航空機部品製造にステップアップすることは十分に可能です。それにタイはアセアンの地理的中心に位置しており、サポーティング・インダストリーが十分に広く根付いています。航空事業においてアセアン地域のハブとなる可能性と品質が併存していますね。加えて航空機産業でもタイは高い可能性を持っています。アセアンの中軸的な航空機産業を発展させる潜在力があります」。
タイ企業の育成が不可欠
現在、工業振興局は産業変革センター(ITC)のプロジェクトに沿って航空機産業に結集する企業のレベルアップを進めている。多くの可能性を秘めた企業に、航空機産業に参加できるレベルの知識と技術を植え付ける。「それは2つの分野でのレベルアップに絞られ、一つは航空機部品製造で可能性が評価された事業家が参加することになります。大手航空機メーカーとタイアップすることになります。もう1つは地上における航空機の保全修理です。すでにタイ航空が自社の航空機の機材・部品の調達を長年行なっています。地上における航空機の保全修理を含めて近々合意を結ぶ予定です。ニューSカーブのターゲット産業の1つとしての航空ロジスティクスの領域に、できるだけ多く参加してほしいところです」。
ともあれアセアン地域の航空機産業はいやでも発展するモードに入った。その中でタイは中核のハブとなる意思を固めている。「アセアン地域で増えてくる航空機関連の部品とサービスをタイが全面的に提供するということです。タイはエアライン往来の成長著しいCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)諸国から、航空機方面の仕事を受注する活動に本格的に乗り出しています。そのためには質の高い人材育成のプランを進めなければなりません。航空関連の経済環境は進展が迅速で、計画は万難を排して早急に進めなければなりません。このチャンスに対してタイはもちろん、シンガポール、マレーシアなども、地域の航空方面の中核となるべく競り合っています」。
将来、タイの航空機産業は大きく羽ばたくことが出来るのか。取り組みは、一歩踏み出したばかりだ。