泰日工業大学 ものづくりの教育現場から

第76回『TNI卒業生の日系企業経営者への提案』 

2019年もよろしくお願いします。タイでのものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。TNIでは、昨年11月に行った学位授与式(写真)の対象は合計1006人になりました。2011年から入学段階では千数百人ですが、日本と違い何割かは単位取得できず、従って今回が初めて1000人を超えました。本稿では第1期の2010教育年度に卒業したシリーさんの日系企業での活躍を紹介します。以下はTNI主催の勉強会での発表要約ですが、シリーさんの日本語が素晴らしく、プレゼンも分かりやすく、タイ人の考え方を良く理解した、という参加者の声でした。

1. 自己紹介:①TNI 情報技術学部情報技術学課程を2010教育年度卒業、②2011〜現在 MapQuestAsia Co., Ltd. 勤務、③役職:開発部 マネジャー ④仕事内容:主務は、システム開発と管理業務だが、副次的に通訳と総務も兼ねる。

2. マップクエストアジアについて:①設立:2011年6月、②事業内容:地図関連ソフトウェア(GIS)開発・販売、受託開発、日本からのオフショア開発➡卒業時と勤務先のタイ創業はほぼ重なる。

3. 泰日工業大学(TNI)への入学理由:①情報技術学部に関心、②語学系(日本語・英語)授業も充実、③奨学金等の支援、④日系企業・日系大学と関係が深く、日本関連の留学、就職などの機会がある➡子供の頃、日本に滞在し、多少日本語ができたこともあり、日本に興味があった。特に高校の先生からTNIの紹介を受け、奨学金もあり、親の負担が軽減されると考えた。また将来日系企業就職を考えていた。

4. タイ人にとっての日系企業への就職:①スタート給与が高い、②福利厚生が良い、③仕事のシステムが明確、④日本に(旅行など)興味ある、⑤研修・インターンシップを通じての就職➡上記はタイ企業に比し、有利と考える。

5. マップクエストアジアへの入社理由:①日系企業で日本語のスキルが活かせる、②IT 会社で習ったことを活かせる、③中小企業で人間関係が悪くないと思った、④スタート給与が高かった➡タイ人は、職場の人間関係を重視し、大企業の場合は、ややこしい面もあると感じる。いま同社でTNIから他に3人が働いている。他のタイ人も同意見。

6. マップクエストアジアでの長期在籍理由:①ITのスキルと語学のスキルを両方とも活かせる、②仕事環境がよく、特にストレスなく仕事ができる、③人間関係が良い、④IT会社だが残業が少ない➡いま7年働いている。日系のIT企業は残業が多いと聞く。

7. タイ人から見た日系企業の良い点、難しい点
良い点:①仕事の進め方がシステム化されている、②日本への出張機会がある、③新しい技術を活用している企業が多い、④時間に正確➡具体的には、いま何をして、次に何をするかが分かる、新しい分野・仕事を取り込める、仕事の遅れがないなど。

難しい点:①日本との時差を考慮して打ち合わせ等をしなければならない、②仕事環境があまり良くない (残業が多い、 会議が長い等)、③厳しい(品質や仕事の内容が厳しすぎる場合がある)、④責任感が強いと時に体調を崩してしまう事がある➡時差は2時間で昼食時などの配慮が要る、残業と会議は、日系企業一般の課題、厳しさはタイ人には負担になり断りづらい、責任感は良い点だが、考えすぎや自分を責めたり、「ほどほど」が難しい。

8. 日本人とタイ人の違い➡文化と育ちが違うので互いを尊重すべき。
厳しさ:仕事に対しての姿勢や結果などが日本人はかなり厳しく、タイ人は緩い➡役所は人によって違う対応になり、余裕を持つべき。タイ人の現状を理解して欲しい。

言語の違い:①お互いの言語では表せない言葉がある、②仲介役(通訳)が入ることで正しく伝わらないこともある➡例えば、「お久しぶり」は、英語でLong time no see!とも言うが、一語で訳せない。通訳も専門用語を理解する必要があるし、まとめて訳す場合は全部を訳さない場合が多い。

文化:①宗教的に禁止(飲酒、牛肉など)されていることがある、②出家、大学の卒業式の時期が就職後になることがある、③徴兵制度 ➡タイと日本の仏教違いや、生活習慣文化の理解をお願いしたい。くじ引きで選ばれるが徴兵期間は、その間休むことはできない。

9. 日本人とタイ人の協働:①説明の図式化で理解しやすくする、②資料を残し、情報を残しておく、③意図を理解してもらえると思わず、全て伝える、④目的を明確にし、やりたいことを理解してもらう事で結果を、⑤正しく出せるようにする、⑥進捗確認を常にし、現状を把握する、⑦文化の違いを理解し、お互いを尊重する、⑧コミュニケーションをよくとる➡これらは提案で、言語の違いの現実を踏まえ、言いたいことを整理する必要があり、また全ては伝わらない場合が多い。会議などでは目的に応じ資料化が必要。プロジェクトや会議の進捗確認や、相手の悩み・困っていることを理解し、解決する、無理強いしないで円滑化を図る。

10. 質疑応答
①日本のインターンシップについて➡特に社会経験がない場合、インターンシップは役立つ。仕事を一から始めるよりも、仕事の概要と人間関係も分かるので、価値がある。
②コミュニケーションのとり方について、タイ人は仕事の関係よりも信頼関係に重き?➡タイ人は信頼関係を重視し、仕事の好き嫌いをコミュニケーションを通じて理解。
③「ゆとりの世代」などとのジェネレーションギャップは?➡勤務して7年になるが、ジェネレーションというよりも「遅刻が多い」などは個人によると感じている。
④コミュニケーション能力に関し、ホウレンソウの重要性を感じている。この言葉のタイ語はないか? ➡(残念ながらカイゼン、モノづくりのように)タイ語はない。なぜ報告、いつまでに日時を決めるなどTNIでも繰り返し教えていただいたが、定着は仕事についてからの課題。

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