タイ企業動向

第18回拡大進むタイのハラール産業

仏教国タイで、イスラム法上で許されたムスリム(イスラム教徒)向けの「ハラール食品」などの研究や開発が盛んになっている。タイ政府は現在、「ハラール開発5カ年計画」を実施中で、総額80億バーツを投下して国内での開発・生産と輸出を加速しようとしている、世界では現在17億人ともされるムスリム人口が2050年には28億人を超えると国連の試算で予想されており、ハラール市場も年7%の割合で拡大するものとみられている。タイ企業・政府などの取り組みをまとめた。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

 

タイ唯一の深海港レムチャバン港から約20キロ。東部チョンブリ県に郵船ロジスティクス(タイランド)のハラール認証倉庫がある。既存施設の一部を改修。倉庫スペースとトラック搬出入口の一部を専用仕様とした。タイにおける認証機関「Central of Islamic Council of Thailand(CICOT)」の認証をすでに得ており、食品を中心としたハラール製品の物流需要を取り込む計画だ。

専用スペースはシートで仕切られ、特別な手洗場が用意。専用のハンドリフトやパレットを使用する。研修を受けたスタッフが業務にあたり、認証基準の遵守にあたる。同社によれば、タイ国内の倉庫について倉庫・物流企業がハラール認証を取得したのは今回が初めて。今後の需要を見据えた戦略に市場の有望性が透けて見える。

同社は2015年にもマレーシアで、運送と倉庫の両業務について日系物流企業としては初めてハラール認証を同時取得した実績を持つ。今回のタイ側の整備によって、国境をまたいだ物流サービスの提供が可能となり、グローバルな需要を取り込む方針だ。

 

タイ初のハラールホテルを手掛けているのは、不動産業や外食事業を展開するタイ企業のTSファミリー・グループ。バンコクのラムカムヘン・ソイ5にイスラム教の戒律に合った「アル・メロズ・ホテル」(242室)を一昨年に開業したところ、中東や欧州などの観光客からの照会が相次いだ。

このため今年2月には、新たな業態としてハラール仕様の価格を抑えた格安ホテル市場への参入を決定。既存ホテルの近くに取得したサービスアパートを2000万バーツをかけて改修し、早ければ年内にも開業の見通しだ。

格安ホテルの名は「アル・メロズ・レジデンス」とする予定で、これまで同様に従業員の6割程度はイスラム教徒としたいとする。ホテル周辺にムスリム向け商業施設も建設する計画もあり、ホテル内で提供する食品や化粧品に止まらない、きめの細かい総合的なサービスを提供するとしている。既存ホテルの稼働率は70%前後で推移しており、「潜在的な需要はなお多い。低所得層のイスラム教徒の旅行者を取り込みたい」(フロント)と話す。

 

こうした動きをタイ政府も後押ししている。工業省工業振興局では今年、タイ国内でハラール食品を製造・販売する中小企業を支援していくため、事業費4000万バーツを計上。認証取得の奨励に乗り出した。認証が得られれば、隣国マレーシアをはじめイスラム諸国への輸出が可能となり、国内企業の収益も向上する。

同局によると、現在タイにおけるハラール食品の輸出総額は2000億バーツほど。認証を取得した主に中小の約5000社が事業に当たっている。これを3000億バーツに引き上げるだけで、ハラール食品の世界輸出額ランキングは12位から5位に上昇。タイはハラール輸出大国となる。同局では今後、単年あたり100~200の工場で認証が取得できることを目指す。

同様に仏教徒が多い隣国カンボジアとハラール振興で協力する体制も目指している。今年初めにはタイの視察団がカンボジアの商業省を表敬訪問。今後の成長性が見込める同市場で共同歩調を取って行くことを確認した。研究・技術力で先行するタイで製品の開発や事業者向けのセミナーなどを行い、労働賃金の安価なカンボジアで生産・輸出するなどの案が検討されている。

学術機関での研究も進んでいる。タイの最高学府チュラーロンコーン大学には、ハラール食品などを専門に研究する機関「ハラール・サイエンス・センター」が設置されている。白衣を身にまとったムスリムの研究者たちがこの施設で研究・開発を進めている。非ハラール製品が市場に混在しやすいタイで、ムスリムの人たちが間違えないよう、バーコードで認証状況が分かるスマートフォン向けの専用アプリも開発した。

 

これほどまでにハラール市場が注目される背景には、冒頭でも挙げたムスリム人口の急激な拡大予想がある。世界の人口の平均増加率1.18%に対し、ムスリムのそれは1.84%。現在の市場規模の約1兆1000億米ドルも2020年には2兆ドルになるという民間の試算もある。

その一方で、少なくないイスラム諸国で食糧が十分に自給できていないという実情がある。国際機関のイスラム協力機構(OIC)の推定では、加盟57カ国の食品の年間輸入総額は1600億~1800億米ドルほど。その上位に現在、名を連ねるのが砂漠地帯を多く持つサウジアラビアやアラブ首長国連邦、イランなどといった豊かな石油資源を持つ国々だ。

今後のムスリム人口の増加が、アジアで爆発的に進行するという予測も将来性への期待を持たせる。米ピューリサーチセンターの試算では、2030年のムスリム人口はパキスタンを筆頭に4位までをアジアが占め、全体でも世界の6割に達するとみられている。こうした中、タイが地政学的に優位に立つことは指摘するまでもないだろう。拡大進むタイのハラール産業に注目だ。(つづく)

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