加速か鈍化か⁉ タイ人経済記者が占う 2019年のタイ景気の行方 

政治情勢の不確定性が2019年のタイ経済のリスク要因に浮上しつつある。総選挙の実施は確実なのだが、昨年の政治、経済、社会の動きはあまり円滑ではなく、人々の心理は加熱したり、冷え込んだり揺れることがあった。今年の動きについて各方面から批判的な予想が出され、過激な意見が混じることは別に不思議なことではない。とりわけ国王の戴冠式が5月に行われることから、2月24日に既定されていた総選挙が延期される模様になり、国の今後の運命についての懸念が出てきている。

今年は多くの国民が経済の活性化につながる総選挙を望んでいる。通商、投資の増大を夢見ているが、しかし総選挙が経済面の数値に影響することはないだろう。世界経済はアメリカ、ヨーロッパ、中国、日本の経済力が規定する構造になっているからである。今年の米国は経済が鈍化する見通しで、原油価格と世界の鉱工業生産指数の低下に連動する。中国は貿易戦争による圧力をもろに受けている。タイもまた輸出が減少する兆候が出てきた。観光分野では昨年、プーケットで多数の中国人観客が乗った船の沈没事故が発生し、中国人観光客が減少してしまった。しかし、今年は中国人観光客が戻ってくるだろう。観光産業が賑わうことは経済のプラス要因である。

今回、3つのメディアのタイ人記者の今後のタイ経済の展望を聞いた。彼らは自国の経済をどのように見ているだろうか。

予断許さない海外情勢 大きなカギとなる総選挙

ビジネスニュース媒体「ミティフン」の報道部長であるランサン・アランミット氏は「タイ経済が順調であるかのように国の指導者は見ているが、国民の大多数は経済が不振であると実感している。国の指導者の見方とは正反対で、実際、順調なのか不振なのか、草の根レベルの国民ならびに若年層の勤労者の感覚は食品などの値上がりで支出が増えているというところである。

今年の経済事情は、昨年の停滞から抜け出すものと予想したい。国家経済社会開発委員会事務局(NESDB)は今年の経済成長率を4%と予測しています。輸出と観光がその両輪として期待されます。さらに政府のインフラプロジェクトの投資、東部のチャチュンサオ、チョンブリ、ラヨーンの3県に広がる東部経済回廊(EEC)エリアに対する外資の進出が成長エンジンとなります。これらの大きな投資民間投資も動き出すどうかが要点です」。

とはいえ景気の行方は海外情勢にも左右される。「リスク要因として、米中貿易戦争は簡単には終わらないでしょう。さらにアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)の金利引上げの姿勢も変わりません。さらに3月29日にはブレグジット(Brexit、イギリスのEUからの離脱)があります。タイは総選挙後の政情が問われます。投資家、消費者に不安を与えるような状況となれば経済は間違いなく減退します」。

トランスポート・ジャーナル紙記者のチンポン・ルアンブンマー氏は「政府が発表する経済指標の数字が良くても、一般の国民は食生活の耐乏感が軽減されません。問題は多々ありますが、今年は輸送交通網がさらに拡大するでしょう。観光方面では昨年プーケットで起きた船の転覆事故によって中国人観光客が激減したことでした。その回復が進んでいるか、まず追わなければなりません。なおタイ観光への信頼度が壊れていなければ、必ず回復するでしょう。政府の予算投入はポイントがずれています。国民のための保健省の健康予算の増加分が、国防省の戦略兵器の購入に充てられるなど、明らかにずれていると言えましょう」と見る。

やはりチンポン氏も今年行われる総選挙を大きなポイントとする。「いずれにせよ総選挙が行われ、民主主義のプロセスにより新たな政権が成立したとして、各国の投資家ないしは政府の信頼を得ることになるか、信頼が得られ、政府のプロジェクトが具体化されてくれば、タイは輝く国としてのイメージを発することになるでしょう。通商、投資方面の交渉において、各種の権利・特典の付与による投資誘致はすんなり受け入れられるでしょう。ともあれ新政権の経済政策が真から問われることになります。メガプロジェクト、行政機構全体への予算配分が適切に行われれば問題はありません。輸出の伸びが続き、観光方面に活気が戻れば、タイ経済のプラス要因になるでしょう」。

選挙後の政策を注視 投資家の信頼を維持できるか

エンジニアリング・トゥデイ誌記者のタサニー・ルアンティック氏は次のように見る。「国民の一人として昨年および今年の経済を展望するとき、現政権は景気の浮揚に全面的な努力を惜しんでいません。しかし軍人が要職を占める政府は得てして民意の吸い上げがうまくありません。国民の多くは一般庶民レベルですが、彼らの要望、意見を政策に反映するのが苦手です。いきおい、政策アドバイザーの経済方面の見立てや、経済信頼度指数の調査結果に過度に寄り掛かる傾向となります。そのため多くの経済政策において、かんばしくない結果を招いてしまうのです」。

そのため、タサニー氏も慎重な見方を崩さない。「また金融緩和の状況下に出される経済刺激策も、特定のグループに偏り、真に刺激を必要とする国民レベルに効果が届きません。国の福祉プロジェクト、高齢者補助金、貧困者補助金、国の福利厚生カード、など意図した効果が出ているでしょうか。また現政権はもうじき役目を終えるので、選挙運動の代わりにポピュリズム政策を打ち出しているのかと勘繰られても仕方がありません。GDPの成長率も3.5~4.5%は行くと唱えられていますが、個人的にはせいぜい3%が良いところかと見ています。賢明な投資家は安定した総選挙の実行、およびその後の情勢に注目しています。どんな変化が起きるのか、情勢が安定すれば投資に出るという態度です」。

タサニー氏はさらに語る。「また政府は貯蓄を奨励していますが、難しいですね。経済不振のなかで貯蓄に回す余裕はないと思います。米中貿易戦争が続いて世界経済が鈍化しており、タイの経済、国家運営のリスク要因になっています。通商政策の揺らぎは免れ得ず、また安値安定の農産物価格も改善されていません。また赤字予算が続いていては繁栄・発展の恩恵はなく、徴税を増やして歳入を充実しなければなりません。また原油の世界相場が安定せずリスク要因になっています。乱高下するたびに生活費が上がります。これらの問題は政府が努力しても解決が進んでいません。今後とも長引く問題であると考えられます」。

今後のポイントには総選挙をあげる。「個人的にはタイ経済は良くなっておらず、かえって不振に落ち込みつつあると思います。日常の生計における支出の重みがずしりと増している感じですね。経済を駆動させるポイントについては、総選挙の後に再考すべきですね。また政治分野の混乱が再来するか否かについては、政党同士で政権を担うことができるか否か、国全体が納得できる金融政策がとれるか否か、国内および海外の投資家の信頼を築くことができるか否か、など注目しなければなりません。信頼度については現政権の執政5年にわたって常に注視されてきました。ともあれ国民を満腹にさせる政策が火急に求められています。世界的な貿易戦争については、米中貿易戦争で中国経済が減速しているか否かが焦点になりますね。中国経済は成長して当然というイメージでしたが、成長減速ともなれば外資の進出がなくなります。中国経済の動きはタイ経済にも影響してきます」とコメントする。

他国の例にもれず、2019年のタイ経済は様々な要因が絡み、楽観視はできない。幅広い国民が成長を享受できる一年となることを願ってやまない。

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