日本市場を狙うタイ企業

日本の大手家電などビッグプレーヤーをメインの顧客に成長してきたバンコクのS.K.ポリマーのスポート(Supote Suwanpimolkul)会長は「今後は日本の製薬・医療機器向けを伸ばし医療機器で使用されるポリマー部品の量産工場として認められたい」と考えている。  S.K.ポリマーでは日系家電大手向けにエアコンのコンプレッサーで使われる部品、エアコン本体の部品なども供給しているが、競争が厳しい業界向けであるため利益が出にくい。そこで医療機器向けを増やしたいと考えているようだ。  創業当初は商社的な活動が中心だったS.K.ポリマーだが、現在では約620人の従業員を抱えるメーカーとして自動車、電化製品、電子機器、製薬・医療機器業界向けなどにゴム成形品とプラスチック成形部品を製造している。S.K.ポリマーは日本の大手水筒メーカー向けの重要部品であるパッキン部品の製造販売も多い。昨年は、初の自社ブランドも立ち上げ、2色成形で製造するストローなどの最終製品の量産も始めた。  日本市場拡大を計画しているもう1社はサムットプラカン県バンプリに綺麗で広々とした工場を構えるエリートデザイン社(ELITE DESIGN Co., Ltd.)。創業社長であるチナテープ(Chinthep Angkhumsub)氏は現在39歳の若手経営者で、タイ工業連盟(FTI)に属するタイ家具工業倶楽部の事務総長も兼務している。  製造している高級ソファーはタイ市場向けがメインだが、日本、韓国、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、クウェートやドイツにも輸出している。タイやASEAN向けが多いのは、同社のソファーは大きなサイズが中心であり日本市場には向かないとチナテープ社長が考えてきたから。  だが最近の同社長は「1人用の電動高級ソファーなら日本市場にうけるのではないか」と開発販売に取り組み始めた。

日系企業での採用が誇り

バンコクに本社を構えるS.K.ポリマーはタイで大手の成形ゴム、プラスチックの部品メーカーで、「ポリマー(高分子の有機化合物)製品で人々の生活向上に寄与し、ポリマーで世界にイノベーションを提供できる企業」を目指している。  S.K.ポリマーは1991年に現会長であるスポート氏が奥さんや弟などと資金を出し合って起業した。S.K.ポリマーでは20年以上前からTQM(総合品質管理運動)に取り組んでいる。スポート会長は「(TQMの進歩に功績があった企業や個人に与える)デミング賞を10年以内に授賞する」ことが目標で「4年以内にタイ証券市場(MAI)に上場したい」方針。  S.K.ポリマーの工場には成型機だけでも119台を導入しており、内115台がゴム成型機で4台はプラスチック射出成型機。コロナ禍で導入が延びているが液状シリコーンを使う成型機の導入も決定している。現状の装置で原料のミキシング(Mixing Capacity)能力は年4,000トン。現在は台湾製機械が多いが、「新工場への移設を機に日本製、ドイツ製機械の導入を増やしたい」とスポート会長は考えている。工場はISO 9002、ISO 9001とISO/TS 16949が認証され、医療機器産業に特化した品質マネジメントシステムに関するISO 13485も近年取得した。またREACHおよびRoHSに準拠しており、難燃性などでUnderwriter Laboratories(米国)が認定するUL規格に準拠したモノ作りをしている。  スポート会長が「当社に留まらず、タイの誇り」と自慢するのは、「かつては日系企業からゴム部品を購入していたタイのブレーキ関係の日系大手工場でS.K.ポリマーの製品が採用されたこと。ゴム製品の一部が当社製、すなわちタイ企業製に置き換えられたことはタイの誇り」という。  S.K.ポリマーは4分野に分け、家電と自動車・2輪向けがメインだがそれらの市場は「飽和状態。だから売上高で現在7%ほどの製薬・医療機器向けと自社ブランド部門の7%ほどしかない2分野に力を注ぎたい」とスポート会長。医療機器ではタイ日系法人向けに点滴セット用の部品を製造販売している。

オリジナル製品も次々と開発

現在、S.K.ポリマーの医療機器向け部品を製造している工場は38ライ(約6万800平方メートル)だが、空き地がほとんどの状態で広々としている。ここに「各地に点在しているグループ会社の工場を集約していきたい」とスポート会長は計画している。S.K.ポリマーで生産しているほとんどがOEM(相手先ブランドによる生産)だが、注文される部品などの設計はS.K.ポリマー社内の設計部隊が担うケースも増加傾向にある。  主要原料のゴムはかつて天然ゴム(NR)が多かったが近年はEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)という耐老化性、耐オゾン性に優れた合成ゴムの使用が増えているとスポート会長は説明した。  バンコクのスワンナプーム国際空港と都心を結ぶエアポートリンクの鉄道線路でプラットホームと電車の隙間にとりつける落下防止の天然ゴム(NR)製のゴム部品もS.K.ポリマーが開発・設計・製造した部品が100%使われている。「医療用製品で使うシリコンゴム、イソプレン(IR)ゴムの使用は当社でも増えそうだ」(同)と見ている。IRゴムは天然ゴムに似た性質がある合成ゴムで耐摩耗性に優れている。  日本の大手企業向けの水筒の部品などを手掛けながらS.K.ポリマーは「顧客の製品と競合しないオリジナルでユニークな製品作りを始めたい」と考え始めた。そしてすでに自社ブランドを立ち上げて最終製品の生産も開始している。例えばユニークな2色成形で製造している繰り返し使える点で環境に優しいストロー。数種の色のストローを製造しているが、2色成形という技術で製造している。飲み口の部分は柔らかくし、氷などをつっつく先端部分は硬く成形したデザインが特徴。「世界で歓迎される当社設計の製品をつぎつぎと開発、製造していきたい」とスポート会長。倒れても中の水やコーヒーなどが零れないコップ、タイのような暑い環境では食べ物が腐りやすいが、腐りにくく、匂いも漏れない弁当箱といった「イノベーションを重視した新製品も開発中」とスポート会長が明らかにした。

ニトリ出身の若き企業家

タイのエリートデザイン社のチナテープ社長は華人系タイ人で、バンコクの中華街(ヤワラート)出身。タイのアサンプション大学でマーケティングを学び、卒業後の2年間を家具やインテリア用品の企画販売で大手注目企業であるニトリのタイ法人で働いた。そしてタイ人の友人とエリートデザイン社(ELITE DESIGN Co., Ltd.)をバンコクの貸工場で2004年に立ち上げた。8年ほど前に亡くした父親は香港産の咳止め用の漢方薬のタイ総代理店を務めるなど漢方薬のビジネスをしていた。  エリートデザイン社の設立当初は、ニトリ専用のOEM(相手先ブランドによる生産)だった。5-6年前までは、日本市場からの注文が多く月35コンテナほどを出荷していたが現在は月10コンテナほど。ソファーは嵩(かさ)張り、(40フィート)コンテナに約30セットしか入らない。ニトリ、不二貿易、長谷川産業グループ、関家具、利根商会の他、アウトレット家具では、日本最大級メガマックスなどに出荷している。その後、日本向けが激減したのはバーツ高で中国、ベトナム、インドネシアなどに負けたから。  エリートデザイン社がバンコクの工場で生産しているのはレザー(革)ソファーのハイエンドもののOEM生産を中心として、代理店経由や自前の各地のショールームを通じた販売の他、ネット販売もしている。原材料は本革と人工皮革で、「本革は主にオーストラリアやブラジル製の牛革、リクライニングのソファーで使うモーターは中国から輸入している。スプリングやウレタンフォームや布などの材料はタイ製でも品質が優れたものが多く、ほとんどをタイで仕入れている」(同)という。  カタログを見ると6万バーツの3人掛け、電動ソファーが3万バーツ(バーツは3.3円)など、かなりの値段がついている。しかし「競合する他社でも同じだが、50%、60%引きのプロモーションを頻繁に実施している」とチナテープ社長が説明した。  OEM生産でスタートしたエリートデザイン社は、これまでの10年間で「GUZZO」というハイエンドのソファーブランドを確立してきた。一般リビング向けに「ACE(エース)」というブランドもあり、卸(ホールセール)も行っている。ACEブランドの製品は「GUZZO」に比べて価格をかなり安く抑えた各種ソファーなどの製造販売をしている。  コロナウイルス感染症(COVID-19)の問題から「4月、5月は20~25%ほど売り上げが下がったが、タイ国内感染者がほぼゼロとなった6月からは持ち直してきた」とチナテープ社長。タイ市場を重視し、コロナ問題発生以来、ネットを使ったオンライン販売に力を入れ始めた。

日本向けのソファーも考案中

タイの家は富裕層でなくても一般的に日本の普通の家に比べると大きいことから、同社が製造している大サイズのソファーが良く売れる。しかし日本向けの大型ソファーは裕福層向けに限られてしまう。そこでチナテープ社長は「今後は日本市場には1人でゆったり座れるリクライニング式のソファーなら売れそうだ」と考えている。  最近では、ソファー製造時に出る革の切れ端を使った家の中に置く革製の犬用ベッドの製造販売も開始している。  チナテープ社長は「昔から高品質の家電製品や美味しい日本料理などで愛着を感じてきた」日本に毎年3、4回も行くそうで、かつて務めていたニトリの本社がある札幌に行くことが多い。チナテープ社長は英語もうまいが、日本語もできるという。  タイ工業連盟(FTI)に属するタイ家具工業倶楽部の事務総長も兼務しているチナテープ社長は、「当社などタイ製のソファーは中国製に比べ高く評価されている品質のステータスを高めたい。当社の『GUZZO』等のタイのブランドを「アジアの良品だと世界で広く認知されるように育てていきたい」という。若手経営者で業界のリーダーでもあるチナテープ社長の今後の活躍が楽しみだ。

2020年11月1日

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