BOIの発表から読み解く タイの投資奨励政策 2021年はロボット、EV、医療関連に注力

新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年の世界経済は急速に悪化した。その一方、今回のパンデミックは産業構造の転換のスピードを加速させた。タイでも自動化技術による効率化が重視され、企業のロボット導入が一気に進んでいる。また、電気自動車(EV)の普及を推進する動きも強まっている。こうしたなか、タイ投資委員会(BOI)は新たな投資奨励政策を発表した。今後のタイの産業構造を把握する上で参考になるので、ぜひ目を通してみてほしい。

タイ投資委員会(BOI)による産業用ロボットの投資促進

タイ政府は新経済モデル「Thailand 4.0」を2016年に打ち出し、農業(1.0)、軽工業(2.0)、重化学工業(3.0)に続く新たな経済のステージとして、科学・技術イノベーションの導入及び研究開発、人材育成の推進による産業の高度化を目指している。新経済モデル「Thailand 4.0」の下で、産業の高度化に注力している。同モデルの産業開発の中核を担うのがファクトリーオートメーション(FA)の導入だ。  タイが主要な製造拠点となっている自動車や電気電子産業をはじめ、あらゆる製造業にとって、予測の難しいグローバル市場において一層の競争力強化を図る上で、自動化による生産効率の向上が急務となっている。また、高齢化社会が進んでいる中、労働力不足の問題の解決にもつながる。ロボットや自動化の導入により、様々な業界で生産性のレベルを上げることが可能となる。  ドイツに拠点を置く国際ロボット連盟(IFR)のデータによると、製造業労働者1万人あたりの産業用ロボット保有台数は、タイが59台とされ、世界平均の69台を下回っている。2016年のロボット出荷台数は2,646台であったが、2020年には5,000台に達することが見込まれている。統計によると、タイへの産業用ロボット出荷予測は2016年から2020年まで年率17.2%で増加すると予測されている。  それに加えてコロナの感染拡大の影響によりソーシャルディスタンスを確保するため、工業用ロボット・自動化だけではなく医療現場、介護施設、公共施設などに使用するサービスロボットの需要も急増している。タイでは、マヒドン大学設置の大学病院で、今年の5月末からタイネットベイ社が開発した医療サービス用ロボット、ハピボット(Hapybot)の試験的利用を開始した。バンコク市内の大手百貨店でも5Gロボットを来店顧客の体温管理に使用している。  産業用ロボットは言うまでもなく、利用率が高くなっている。次頁(14p)の表はロボット産業のサプライチェーンを示している。主要な顧客はタイの大手企業である自動車産業と電気産業。すでにタイに会社を設立したロボットメーカーまたは販売事務所を設置している企業で、いずれも世界のロボットトップメーカーだ。  2018年時点で、タイにロボットや自動化機器設備を導入済みの工場は30%程度とみられている。タイ政府は2022年までに50%へ引き上げるという目標を設定し、実現のために供給側であるロボットメーカーと需要側であるロボット導入企業双方に優遇恩典を設けた。人材面では2017年時点でタイ国内のシステムインテグレーターは200社あるが、2022年までに1400社まで引き上げる目標を設定した。 ロボット・自動化機械設備の競争力強化かつ人材開発のため、閣議決定でCenter of Robotic Excellence(CoRE)という新しい機関を設立した。CoREは9つの研究所や大学で構成され、技術移転かつ研究開発成果の商用化支援などを目的とする機関だ。2022年までに200社に対してロボット・自動化機械設備に関する技術移転・導入を目指し、25,000人を対象に同分野に関する講習を行う計画だ。  具体的な活動の事例としてCoREの一員であるタイ工業省傘下のタイドイツ職業訓練学校がシステムインテグレーター育成講座を設け、2019年には150社735人が参加した。

ロボット・自動化機械設備の投資を促進するために、タイ投資委員会(BOI)はタイでロボットや自動化機械設備の製造ならびにシステムインテグレーション(SI)の事業を行う企業に高い恩典を付与するとともに、既存機械をより効率の高い機械に代替した場合にも恩典を付与するなど需要の喚起にも精力的に取り組んでいる。供給側として恩典が受けられる対象事業は、「自動化機械及び(又は)その設備の製造」や、「ロボット又は自動装置及び(又は)その部品の組立」。  法人所得税を最大8年間免除し、また東部経済回廊(EEC)の指定された区域に立地する場合には、条件により免税期間の延長や免税期間終了後3~5年間の50%減税恩典が追加で付与される。その他、輸出用製品に使用される原材料及びプロジェクトで使用する機械に対しても輸入関税の免税恩典が用意されている。税制以外の恩典として、奨励事業を行う土地の所有権も与える。  また、「エンジニアリングデザイン」、「ソフトウェア開発」、「通信システム製造」、「安全制御装置製造」など、関連事業分野に対する恩典も充実している。需要喚起のための恩典としては、生産効率向上のための投資奨励措置があり、これにより自動化市場の拡大を促す。具体的には、自動化システムの機械へ代替投資を行った場合、法人所得税が投資金額の50%、または条件により100%が3年間免除される。  既存企業によるより効率の高い機械への代替実績は、2018年1月から2020年6月までで、このスキームの下で奨励を受けた事業が54件、合計金額は56億バーツだった。

EV事業向け・医療関連事業向けの新たな投資奨励策やIPO事業の復活

タイ投資委員会(BOI)は11月4日に、バッテリー型電気自動車(以下、BEV)及びその重要部品の現地生産に重点を置き、電気自動車(以下、EV)サプライチェーンの主要側面をカバーする包括的な恩典実施を承認した。これにはあらゆるサイズの商用車と船舶も含まれる。 EV事業向けの新たなパッケージ  この新たな投資奨励パッケージは2018年に終了した初代のEVパッケージに続く恩典で、乗用車、バス、トラック、オートバイ、三輪車、船舶など広範囲に渡る電気自動車を対象とする。これら電気自動車の恩典は、以下の通り。

●四輪車:投資額50億バーツ以上の適格プロジェクトは、プラグインハイブリッド(以下、PHEV)に対して3年間の法人所得税免税が与えられる。またBEVは8年間の法人所得税免除に加え、研究開発投資がある場合には恩典期間が延長される。投資額が50億バーツ未満の適格プロジェクトはPHEVとBEVに3年間の法人所得税免税が与えられるが、BEV生産を2022年までに開始、主要部品の追加生産、3年以内の生産台数が最低10,000台に達し、かつ研究開発投資がある等の要件を満たせば、BEVの免税期間が延長される。

●オートバイ、三輪車、バス、トラック:適格プロジェクトには、3年間の法人所得税免除が与えられ、追加の要件を満たす場合には免除期間が延長される。

●500トン未満の電動船舶生産プロジェクトには、8年間の法人所得税免除の対象となる。

BOIはまた、高電圧ハーネス、減速ギア、バッテリー冷却システム、回生ブレーキシステムの4種類のEV部品を投資奨励の重要部品リストに追加した。これらの4つカテゴリーは全て8年間の法人所得税免除を受けることが出来る。  EVバッテリーの現地生産を促進するため、BOIは現地市場向けのバッテリーモジュールおよびバッテリーセルの生産に対して、タイ国内で入手できない原材料の輸入関税を2年間にわたって90%引き下げる追加恩典も承認した。  BOIはこれまでに、ハイブリッド電気自動車(HEV)が5件、PHEVが6件、BEVが13件、電気バス2件を含む26件の様々なタイプの電気自動車生産プロジェクトを承認しており、合計生産能力は566,000台/年以上に上る。すでに7つのプロジェクトが商業生産を開始した。それらは、日産、ホンダ、トヨタがHEVの生産を始めているほか、メルセデスベンツとBMWはPHEVをFOMMと高野がBEVの生産を開始している。 臨床研究(Clinical Research)  タイにおけるヘルスケア分野の競争力を高め医療ハブとしての地位を強化するために、BOIは臨床研究を促進するための委託研究機関(Contract Research Organization:CRO)と臨床研究センター(Clinical Research Center:CRC)の運営に対して、8年間の法人所得税免除の新しい恩典を承認した。  資格を得るためには、タイ国籍を持つ新規採用の臨床研究人員の給与として年間150万バーツ以上を支出するか、プロジェクトに100万バーツ(土地、運転資金、車両代を含まない)以上を投資しなければならない。 高齢者向け病院とサービス  高齢化社会に備えるため、BOIは高齢者や介護サービス事業者に対して税制上の優遇措置を与えることを承認した。

●高齢者向け病院は、50床以上の収容能力があることを条件に、5年間の法人所得税免除が受けられる。

●高齢者や介護サービスは、50床以上の収容能力があり、タイ国籍者が資本金の51%以上を保有していることを条件に、3年間の法人所得税免除が受けられる。 国際調達事務所のカテゴリーの復活

BOIは、地域ビジネス及び投資ハブとしてのタイの地位を強化することを目的に、国際調達事務所(International Procurement Office:IPO)カテゴリーの復活を承認した。IPO事業者は、国家のサプライチェーン発展を促進するための政策の一環として、機械および輸出のための生産に使用する原材料の輸入関税が免除される。 生産効率向上措置の延長  4つの施策を網羅した「生産効率向上措置」の恩典申請期限が2年延長され、2022年末までとなった。また、3年間の法人所得税50%控除を含む恩典パッケージは、製造業とサービス業の両方に適用されることを明確にするため、当初の名称から「生産」という文言を削除した。  また、これまでは農産業事業のアップグレードへの投資に限定されていたが、家具工場や製紙工場などのサプライチェーン関連活動における持続可能な開発を促進するために、食品安全管理システム(ISO22000)や持続可能な森林管理システム(ISO14061)等の国際的持続可能性基準の実施を奨励するための条件を拡大した。  生産効率向上の4つの対策は、省エネと代替エネルギーの利用、機械の改良による生産効率向上、研究開発、効率向上のためのエンジニアリング設計、持続可能な開発を推進することを目的としている。

※本稿はタイ投資委員会(BOI)からの情報配信を本誌が再編集したものです。産業用ロボットの投資促進については第8/2020号(9月11日配信)、EV事業向け・医療関連事業向けの新たな投資奨励策については第9/2020号(11月10日配信)から転載しました。これらの情報についての質問、タイ進出に関する相談がある方は、下記のタイ投資委員会(BOI)事務局までお問い合わせください。

【問合せ先】 BOIバンコク本部 ジャパン・デスク Tel:025538464
E-mail:head@boi.go.th
Line:@boinews
Facebook:BOINEWS
BOIのホームページ:www.boi.go.th

2021年1月1日掲載

  • Facebook
  • twitter
  • line

関連記事