タイの成長産業 今、どの業界が伸びているのか

新型コロナウイルスの蔓延は、タイ経済に甚大な影響を与えている。多くの経済活動が制限され、特に観光、サービス業、工業は損失が避けられない状況だ。その一方、こうした環境下でも好調な業種もある。政府機関や民間企業の試算では、医療産業、電子・電気機器産業、製紙産業等はコロナ禍のなか業績を大きく伸ばしている。本稿では、コロナ禍による経済環境の変化を追い風に急成長するこれらの産業にスポットを当てる。
文/Jeeraporn Thipkhlueb

医療産業に好機到来

新型コロナウイルスの感染拡大により、タイでは医療関係者や一般市民向けの医薬品や医療機器、マスクやゴム手袋などの医療用消耗品の需要が拡大している。  商務省事業開発局が発表したデータによると、医療機器市場は過去4年間(2018‐2021年)で増加傾向にあり、2020年は前年比88%増、2021年1‐4月期は前年同期比62%増だった。また医療機器の輸入額は前年比10%増、2021年1‐3月期は前年同期比3%増となっている。  2021年1‐4月期に新規設立された医薬品・医療品の企業(小売業)は前年同期比24.42%増の535社、登録資本金の合計は同27.91%増の9億3,767万バーツだった。昨年の同時期(2020年3‐4月期)のデータによると、特に2020年は新型コロナ第一波の発生により登録件数が前年比35.73%増となっている。2021年も新型コロナの第二波、第三波を受けて、登録件数はさらに増えることが予想される。医療用医薬品の需要もそれに応じて増加している。  事業数および資本金に関するデータ(2021年4月30日時点)によると、医薬品・医療品の小売・配送の事業数は10,386件(タイの全事業の1.31%に相当)、資本金は822億8,684万バーツ(同0.42%)だった。大半の事業が有限会社の形態で運営されている。そのうち登録資本金100万バーツ以下の事業が全体の80.49%(8,360社)を占め、資本金の合計は760億7319万バーツ。登録資本金が101~500万バーツの事業は2,589件(7,050社)、501万~1億バーツの事業は629件、1億バーツ以上の事業は118件となっている。2021年の事業者の増資は前年同期比46.22%減の35億6,200万バーツだった。  医薬品・医療品の小売配送業はバンコクに集中しており、事業数は5,149件(全体の49.57%)、登録資本金は548億7,122万バーツ(66.69%)、登録事業所数は2,251社(21.68%)となっている。  工業省は、4つの緊急対策(人材育成、製品試作開発の強化、製造業およびサービス業のサポート、産業集積の推進)で医療機器業界を支援しており、これらの対策はコロナ禍との戦いを支える歯車の一つとして期待されている。  スリヤ工業大臣は、工業省産業振興局が医療機器産業の継続的な成長を加速させていると述べた。これは同省の長期的な開発計画に沿ったもので、医療製品、医療機器、医療サービスの可能性と水準を国際的なレベルにまで高めることを目的としている。タイの事業家が競争力を高めるために、医療製品規格の審査・認証を正確かつ迅速に、適正な価格で行うことを推進する。工業省はその重要性を認識し、健康危機への最も効果的な対応策を推進している医療機器業界への支援を急いでいる。  国家経済社会開発庁(NESDB)は、2021年度下半期の計画と運営体制を工業省の方針に沿ったものにし、新型コロナの状況に合わせて最大限の効率性を実現するために、医療機器産業への支援を多方面で加速させている。その一環として、現在および将来の流行に対応するための礎を作るべく、以下4つの緊急対策を通じて医療機器産業の準備態勢を整えている。

1.人材育成:医療機器業界の人材が、現代技術と応用技術の両方の知識を併せ持つ。技術の適切な適用、また医療機器業界の規制や規則に関する知識と理解を生み出すことを目的とする。

2.製品試作開発の強化:再生、診断、治療の分野を含め、AIとIoTに関連するイノベーションと技術開発を推進する。フルフェイスマスク用の連続空気供給キット、人工呼吸器テスター、健康情報コンサルティングシステムなど、新型コロナの流行状況に対処するための両方の側面をカバーする。肺疾患分析用の遠隔AIシステム、唾液ミスト吸引器(歯科用器具)等の製品のプロトタイプ開発を、教育機関と研究所をはじめとする医療関係者が一体となって行う。

3.製造業およびサービス業のサポート:企業のコスト削減を可能にする生産プロセスの改善と開発を行う。生産に伴う廃棄物の削減、またマーケティング計画を推進し、付加価値を付けて再販売を推進する。

4. 産業集積の推進:強力な産業グループを形成し、医療機器産業の能力を向上させるための産業統合を進める。ビジョンの共有、技術移転と知識の提供、医療機器規格試験機関のネットワーク上でのデータ作成・収集など、あらゆる次元で準備を整える。また、現状に即した新製品の試作品も共同開発する。

国家経済社会開発庁(NESDB)は、2021年までに医療機器業界の100人以上の起業家や人材を支援することを目指している。同庁は2016年から2020年にかけて、400以上の医療機器産業のアップグレードを実現した。

電子機器の輸出が拡大

工業省工業経済局のデータによると、2021年第1四半期(1‐3月)の電子機器の生産量は前年同期比7.6%増だった。タイの主要な輸出市場であるアジアや欧州、中国はコロナ禍から回復しつつあり、5G技術システム、データセンター、IoT、ITインフラ製品の需要が増えている。タイの電子機器の生産量が増えている背景には、これらの地域への輸出が拡大したことがある。  第1四半期の電子機器の生産指数は前年同期比7.6%増の98.8ポイントだった(前四半期比1.4%減)。増加した製品は、プリンタが65.5%増、プリント基板(PWB)が17.9%増、半導体デバイスが12.6%増、集積回路(IC)が 10.9%増、HDDが3.3%増だった。プリント回路基板アセンブリ(PCBA)は14.5%減となったが、PCBAは5G技術のシステムやデータセンター、ITインフラ向け製品の開発に必要であり、結果として電子製品における需要が高まっている。  第1四半期の電子機器の輸出額は99億1,780万米ドルだった。主要市場であるアジアへの輸出が27.8%増加したことにより、前四半期比で0.5%増、前年同期比で16.7%増となった。プリント回路基板では、ダイオードが40.2%増、トランジスタが25.8%増、半導体およびHDD用部品が20.6%増、集積回路(IC)が15.3%増となった。  2021年第2四半期の電子産業の見通しは、世界的な輸出市場の回復、またタイのコロナ禍からの回復により、生産指数は約3.0%上昇、輸出額は約5.0%増と予測されている。5G、データセンター、IoT技術システムの開発を含め、エレクトロニクス製品の需要が増加している。

電気製品の需要も増加

工業省工業経済局のデータによると、2021年第1四半期の電気製品の生産量は前年同期比0.9%増だった。世界経済が回復し始めたことにより、タイでは洗濯機、冷蔵庫、ケーブル、変圧器、電子レンジなど家電の受注が増加し、米国、欧州、中国市場への輸出が拡大している。第1四半期の生産指数は112.0ポイントとなり、国内市場では前四半期比18.6%増、前年同期比では0.9%増となった。  製品別の増加率は、電動機が22.7%増、電線が21.3%増、洗濯機が21.2%増、冷蔵庫が15.5%増、ケーブルが9.2%増、変圧器が 8.1%減、電子レンジが7.8%増だった。一方、生産量が減った製品は湯沸かしポットが12.2%減、エアコンが10.4%減、扇風機が8.4%減、炊飯器が8.4%減、コンプレッサーが3.7%減だった。  第1四半期の国内売上高が前年同期比で増加した製品は、扇風機が20.7%増、洗濯機が15.7%増、電線が9.7%増、ケーブルと電気モーターが3.8%増、冷蔵庫が2.1%増だった。一方、売上高が減った製品は電子レンジが33.6%減、湯沸かしポットが22.2%減、コンプレッサーが8.5%減、炊飯器が2.7%減、エアコンが2.6%減だった。  第1四半期の電気製品の輸出額は前年同期比18.4%増の71億3,740万米ドルだった(前四半期比8.4%増)。国別では、米国市場が41.0%増、欧州が32.1%増、中国が31.6%増。製品別では、変圧器が82.4%増、電線が36.5%増、洗濯機が30.0%増、電子レンジが29.1%増、冷蔵庫が22.1%増、電動機が12.8%増、エアコンが10.8%増、扇風機が4.3%増となった。  2021年第2四半期の家電業界の動向について、工業経済局は、生産指数は5.0%上昇し、輸出額は100%増になると予測している。世界経済が回復し始め、米国、中国、香港、日本など多くの国で電気製品の需要が増加に転じている。

紙・パルプ産業の行方

工業経済局は四半期および年間の業界動向に関するレポートを発表している。その中には紙・パルプ産業に関するデータもあり、第一四半期のデータによると、パルプ、板紙、段ボール、印刷・筆記用紙など全ての製品の生産量が前年よりも増加している。コロナ禍による消費のECシフトや食品の生産増に伴い包装箱の需要が増えていることが背景にある。  2021年第1四半期の紙・パルプ製品の輸出額は、前四半期比2.71%増の5億3,871万ドル。そのうち80%以上が中国に輸出された。輸入額は7億8,768万米ドルで、前四半期比36.59%増、前年同期比15.07%増となった。国内の紙製品の需要は急増しており、特に紙製パッケージは引き続き輸入されている。新型コロナの影響で生活様式が変わり、国内生産だけでは足りない状況になり輸入増となった。  2021年第2四半期の傾向について、工業経済局は、ニューノーマル時代は紙製パッケージが大幅に増え、その素材となる紙(段ボール紙、クラフト紙)の需要も国内消費に合わせて拡大すると予測している。  新型コロナの感染拡大により、商品配送サービスは拡大し続けている。しかし、最終的に業界が前進するためには、さらなる要素が必要だ。ニューノーマルのライフスタイルにより、消費者の行動や製品に対する需要は変化している。そうした状況下において、事業家は消費者の需要を満たすだけではなく、販売チャネルを増やしたり、新しい市場でのパートナーを見つけ、競争力を高めるために技術を統合したりするなど、時代に合わせた成長戦略をもつことが重要となる。

2021年7月1日掲載

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