泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第41回 『タイの夢実現に向けて』
タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。街にイルミネーションが輝くクリスマス前から新年にかけて、「忘年会」ではなくサワッディピーマイやHappy New Yearの会が賑わい、TNIでも12月18日教職員の新年会が校内で開かれました。前回から続く「日系企業に働くTNI生の企業評価」は次号にさせていただき、今回はタイ政府の2026年先進国入り目標について取り上げさせていただきます。
大学を含む学校等の暦上の年末年始は、12月31日から1月3日までで、本稿はちょうどこのとき書いています。バンコクでは29日の月曜日からの1週間は交通渋滞が大幅に緩和し、タイ人の好むサバーイ=快適な1週間でした。上記の教職員新年会は酒なしですが、踊り、歌のプレゼン(写真参照)とくじ引きなどで大いに盛り上がり、残念(当然?)ながら、日本人よりタイ人のプレゼン力は素晴らしいと感じました。
キティポン タイ国立科学技術革新政策事務所副所長による2026年先進国実現政策と中進国の罠脱出案
2015年10月28日、TNIで「J-T技術革新セミナー」を開催しました。タイは2026年までに先進国になるという目標を立てています。戦略と企業支援策などをキティポン・タイ国立科学技術革新政策事務所(STI)・副所長に紹介いただきました(*図をご参照)が、今陥りつつある中進国の罠脱出への鍵は「技術革新」のようです。これに応えることを含め、いま在タイ日本国大使館では、日タイの人材育成関係者を一堂に会した人材育成円卓会議の開催を計画し、日タイ産業人材育成協力イニシアティブをまとめつつあります。
TNIは設立9年目に当たります。タイの教育に不足する産業(職業)教育を日本のものづくり思想・手法から見直し、産業界を中心に約3050人の卒業生を輩出、グローバルニーズに合ったモデル人材育成を実践しています。TNIの産業貢献努力は、これにとどまらず、この技術革新の一役を担おうとタイ人幹部が自覚し、その一環でJ-T技術革新セミナーを実施しました。一方慢性化している交通渋滞の解消は、国民の意識と同時にシステムを改革する必要があるように、これらの改革も同様に大きなことと感じています。
J-T技術革新セミナー (2015-10-28) の概略
- お蔭様でセミナーには、企業から82人、教育・研究機関から81人、本学教職員72人の合計235人 の参加を得ました。このうち日本人は46人です。さらに、展示に153人のTNI学生が加わり、合計388人の参加となりました。
- セミナー発表では、高専機構(国立高等専門学校機構)が51校からなる高専システム、技術開発・共同研究、そして味覚センサー開発事例を、芝浦工業大学には、産学連携:深海探査艇江戸っ子1号・乾燥野菜と異物選別などを、また近畿大学には、ものづくり教育と金型磨きロボットの開発をご紹介いただき、さらに15の教育・研究機関による50のポスター展示で、別添写真のように、企業の方、研究・開発者、学生に大変な興味・関心を示していただきました。
- アンケートを垣間見ましても、味覚センサー、江戸っ子1号、乾燥野菜と異物の選別、バイオコークなどの新材料開発、マグロ養殖や金型自動磨きなど、「最新の内容を映像を含めて見聞きでき、大変新鮮でよい経験・刺激になった」とのことです。
- また、タイ政府の2026年までの先進国目標の具体的戦略と企業支援も役立ったとのことです。
- 今回は、初めての試みで、上記機関には「手弁当的」ご支援ご協力のご負担をおかけしましたが、大同大学、近畿大学、芝浦大学、信州大学、東北工業大学の教職員の皆様とは、同日の午前に各大学の研究・開発の現状と技術革新について、日本-タイ技術移転を促進するための関係者のネットワークについて、タイにおける知的財産権保護と活用について、相互意見交換会を開催させていただきました。
- 結果、TNIの知見を増やすことができたのみならず、また相互交流のきっかけになったとのお声を聞き、ある面で、タイ側だけでなく、日本の機関にも役立つものであったと安堵しています。
- タイ産業におけるR&D活動支援専門家ネットワーク構築と日本の研究機関が保有する特許案件の技術移転を目的とした本セミナーは、さらに、タイ機関では、STIとTPAに、また日本機関では、日本大使館、 HIDA、 JCC、 JETROバンコク、 JSPS バンコク、 JTECS、 NEDO(大使館以外は、アルファベット順)のご後援をいただきました。今回を貴重な糧に次への機会を設けさせていただきたく、今後ともご支援後協力をお願いするしだいです。
- なお、以下の機関のホームページもこのイベントの紹介をいただいています:
近畿大学http://www.kindai.ac.jp/sci/event/011710.html
日本学術振興会バンコク研究連絡センターhttp://jsps-th.org/2015/10/28/3527/
筆者:吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問