泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第58回『バンコクのインフラ開発』
タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回は、スポンTNI理事長が2016年11月に行ったJセミナーの講演内容をお伝えします。バンコクは1999年にBTS、2004年に地下鉄が誕生し、一時期、交通渋滞は解消されたという認識でしたが、最近の交通状況はまた酷くなり、ネットで調べるとWHO(世界保健機構)の2015年発表では世界でリビアに次ぐ第2位の交通事故死亡率です。タイの交通事故による死者数は10万人当たり36.2人で、日本の4.7人の約8倍です。道路の保全管理、車両の整備基準、道路交通法規執行の不十分が理由に挙げられていますが、これらだけでなく、インフラ・交通の諸システムや国民意識の変革が必要と感じるのは日本人だけではありません。前号に取り上げたようにTNIでも、意識改革から始めています。
泰日工業大学のあるパッタナカーン・ソイ37-39の地は、バンコク都のスアンルアン区にあり、バンコク中心地から10-15キロにもかかわらず、車で1時間以上かかる場合が多くなっています。5月下旬、夜半の雨が明け方まで続いた日は、私自身もスクンビットの住居から大学までのわずか10キロで4時間弱掛かりました。特にプラカノン近くからはバスで3時間近く掛かり、途中の工事箇所はかなりの冠水状況で、自然災害だけとは言えない状況です。また命を懸けて渡らなければならないような横断歩道があります。今回は、首都圏の交通の現状と課題、高速道路と鉄道の今後の計画に焦点を当てます。
バンコクのインフラ開発 スポン・チャユッサハキット泰日工業大学 理事長 / バンコク高速道路・メトロ社上席役員
1バンコク首都圏のインフラ開発について
- バンコクの交通渋滞はいつなくなるか等、Jセミナー事務局から課題をもらったが、バンコク首都圏のインフラの現状と課題、5・10年後の鉄道と高速道路システムを、タイ全体を含めて具体的に解説したい。
- 首都圏のインフラの要は高速道と都市鉄道であり、2つを中心に現状、課題、対応をお話しする。
- タイ政府省庁間で数字が異なる現状を踏まえ、細かな数字よりも、全貌を理解(数値は概要とご理解)いただきたい。
2 首都圏の交通の現状と課題
2.1 バンコク都の略史
- 230年前の1787年、ラーマ1世がバンコクを首都にした。
- アユタヤ王朝はビルマとの戦争に負け、当時は6つの小さな王国があったが、トンブリ国王が統一し、ラーマ1世が受け継ぐ。
- ラタナコーシン朝の都(クルンテープ)として建設され、チャオプラヤ川下流に位置し、河口から30キロのところにあるラタナコーシン島に、王宮と官庁を中心に形成。田んぼが多く、海上から1メートルで、洪水が起きる低い土地。当時は田んぼのみの中国人の村というイメージ。
- 交通輸送に運河を沢山作り、東のベニスとも言われたが、道路を作ったのは1861年(150年前)のラーマ4世の時代。車はなく人力車が多く、初めての道路は「ニューロード」のチャクルンクルーン道路。
- その後、3本目のシーロム道路など。運河を利用した道路が多い。
- 当時、トラム(路面電車)が1894年(120年前)に建設されたが、1968年に廃止した。
- 汽車(ロコモティブ・トレイン)は、日本の電車と同じくらいの1896年に建設されているが、今の交通問題の大きな課題。
2.2 面積(首都部:首都圏)1,569㎞²:7,762㎞²
2.3 人口(同上)登録5.7百万人/実際8.3百万人:登録10.7百万人/実際14.5百万人
2.4 車両台数 (同上) 約8.8百万台:約1千万台
*昼間人口は1.2千万人で朝夕のラッシュアワーはご存知の通り。車検は日本より緩く、古い車が走っている。
2.5 道路面積:約8%
*普通10%で交通問題が発生する。
2.6 中心部(ラッシュ時)平均時速:15㎞/h;最悪の箇所7㎞/h
2.7 有料高速道路:8本計284㎞
*有料でなかったインターシティのモーターウエイはこの中に入っていなかったり、カンチャナピセーク環状線の東側と西側で有料無料条件が異なったりする。ラーマ9世国王即位25周年時にラチャダーピセーク通りを建設開始、約22年後完成。即位50周年時にカンチャナピセーク通り(アウターリンク)を建設開始、約11年後完成。
2.8 高速道路利用率:1.83百万台/日
2.9 都市電車:5本計108km
2.10 都市電車利用率:1.1百万人/日 (*まだ低い利用)
*交通渋滞解消策で、高速道路か都市鉄道かの問いに対して、私の意見は、電車という回答。案としてはシンガポールより早かった。
(次号に続く)