タイ版 会計・税務・法務
第142回 今回のテーマは、「BOI奨励‐国際調達事務所(IPO)の復活について」です。
Q:今般、BOIが以前にあった国際調達事務所の優遇措置を復活させたと聞いたのですが、どのようなものなのでしょうか?
A:国際調達事務所(International Procurement Office)というのは、2015年にこの優遇措置が拡充された形で、国際貿易センター(International Trade Centre: ITC)に変わるまで、サービス業が規制されているタイにおける部材調達のための外国法人拠点設立優遇処置として、利用されていました。 源流をたどると、最初は外国投資の誘致は、工場から始まり製造業への外国企業の参入は積極的に奨励されたものの、サービス業の一部である販売業には、他のアジア諸国も含めてなかなか認められていませんでした。一方、製造業が盛んになってくると、その部材調達においても外資の商社、特に専門商社等の利用なしには円滑な製造のオペレーションが難しいことが政府にも認識され、タイにおいて製造業に対して原料部材供給する拠点として外資企業に門戸が開く制度として導入されたのがIPOであったと言えます。 その後IPOは、完成品の取り扱いや、海外間取引の中継として、いわゆる「外―外」取引(三国間貿易)を行うことも可能になった、ITCの制度に引き継がれ、制度の使いやすさもあって多くの日系企業がITCでタイに進出をすることになりました。 一方、このITCの制度は、同時期に施行されていた国際統括拠点(International Head Quarter:IHQ)とあいまって、租税回避行為に利用されやすい制度として、OECDより勧告をうけることになります。主たる論点はITCやIHQの拠点を通じた取引を行うことにより、グループ間の利益操作と租税回避が行われる懸念が強いという点です。 そのため、BOIは再度制度を改正し、2018年、このITCとIHQを合わせたような制度として国際ビジネスセンター(IBC)という優遇制度が導入されました。ただし、この制度は10名以上の雇用や、国際貿易業務以外に他の業務を行わなければいけない等の制約があり、IPOやITCに比べて申請件数が激減したと聞いております(2019年4月号掲載記事をご参照ください)。 今回、新型コロナの影響もあって投資が落ち込む中で、BOIはかってのIPOを復活させました。その主な特徴は以下のとおりです。①業務としては原料部材の卸売・輸出のみであり、完成品の取り扱いと外―外貿易は含まれていない、②申請要件としては、1)資本金1000万バーツ 、2)倉庫と製品管理システム、3)調達と付随する活動が実質的に行われていること、4)少なくともタイ国内調達先があること(国内調達比率は規定されず)、③機械設備、および原材料の輸入税免税、となっており、これは以前のIPO制度とほぼ同じものになっています。 IBC設立に比べると、最低人員や他の事業の要求がない面で、専門商社等の部材を輸入される方にとっては、タイ進出において利用しやすいものかと思います。ITCと比べると、少し劣った形にはなっているものの、IPO復活により卸売関係のタイ投資が活性化されることを望みます。
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. パートナー(ジャパンデスク)
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: JPD@mazars.co.th
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2021年3月1日掲載