タイ企業動向
第74回 「コロナ規制撤廃。 参入相次ぐ健康産業」
2年半余り続いた新型コロナウイルス感染症による各種規制が10月1日解除された。これに先立つ9月30日、タイ政府は非常事態宣言に基づき設置していた国の感染症対策センターについても解散を決定。今後は、エンデミック(日常的に流行する感染症)の宣言時期をにらみながら、保健省がその指揮を執ることになる。一方、企業各社は巣ごもりが続いたコロナ禍で、消費者の志向がすっかり変わったと判断。健康をテーマとした新しい商品の開発・販売に乗り出している。その動きは、健康仕様の高級スーパーマーケットの開設から、砂糖の不使用や薬草を使った飲料の製造販売まで実に多種多彩。今、現場はどうなっているのか。最前線を概観する。 (在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)
中華系タイ人社会に伝わる伝統菜食行事「キンジェー」が始まった9月26日、タイの市場調査会社「Market Buzz」が一つの興味深い調査結果を発表した。「コロナ禍が終わろうとしている今、今後の食生活をどうするか」といった質問に、65%のタイ人消費者が「肉の量を減らす」と答えたというのだった。一方で、「これまで定期的に肉を食べてきた」と答えた人はほぼ同数の68%。日常的に肉食を続けてきた人の大半が、これからの食生活を改めるとしたことも分かった。
肉食を減らす理由としては、多くの人がコレストロールや脂質の低減、体重の削減、脳卒中や心臓病の予防などを挙げた。45歳以上の女性で特に多かったといい、コロナ禍による巣ごもり生活が健康への意識を芽生えさせたと同社は分析している。中には、持続可能な社会の実現や動物虐待を減らしたいといった意見もあったという。
こうした中で近年、注目を集めているのが大豆や芋、キノコなどといった植物由来の素材を使った「代替肉」の浸透だ。同調査でも全体の62%の人が「知っている」と答え、大手食品メーカーが生産販売する銘柄名まで具体的に答えられた。代替肉に、繊維やビタミン、ミネラルといった人体に有益な栄養素がふんだんに使われていることも多くの人が知っていた。
しかし、実際に食べたことがあると答えた人は、わずか3分の1の39%にとどまったことも印象的だった。巣ごもり下の自宅で、さまざまな情報に触れ合う中、新たに知った事実のようだ。一方、今後、購入するかの問いには41%の人が「購入する」と答え、43%が「まだ分からない」と答えた。購入するのうち、70%の人が「一般的な肉より高額でも購入する」と答えたことも注目を集めた。
こうした結果に、タイローカルの食品加工業界は勝機到来と見ている。街は静まり返り、すっかりと疲弊したコロナ禍のタイ産業界。少なくとも食品業界においては一縷の望みと見るからだ。ようやく訪れたコロナ規制の全面撤廃。タイの産業界は少しずつ活力を取り戻していると言うことができるだろう。(つづく)
2022年11月1日掲載