タイ版 会計・税務・法務
【第68回】 外国人事業法の改正動向について
Q:外国企業がビジネスを行う上でのルールが変わるという話を聞いたのですが。
A:現在(2014年12月初頭時点)議論されている『外国人事業法』の改正に関連するお話かと思います。
タイにおいては、サービス業等の特定の業種において外国企業が事業を行うことが制限されていますが、この外国企業の定義や、外国企業の実施が規制されている業種について定めているのが『外国人事業法』です。2014年11月初頭、商務省商業開発局局長が外国企業の定義を変更する方向での『外国人事業法』の改正を検討していることを認める発表をしたことから、そのような話になっているものと思われます。
Q:外国企業の定義が変更になるとは、どういうことでしょうか。
A:今回の法改正では、出資比率によらず、実質的な経営権が外国人にある企業を『外国企業』と定義するように提案されています。
まず、現行の『外国人事業法』上、外国企業とは、外国人、外国企業、又は同法により外国企業として規定された法人により株式の半数以上を出資されている法人であると規定されています。そして、外国企業はサービス業を初めとする規制業種への参入が禁止されています。
このため、仮に外国企業である日本企業がタイにおいて規制業種に参入しようとする場合、原則株式の半数以上をタイ人株主に保有してもらうことで、外形上は外国企業ではない企業として行う必要があります。
他方、仮に外形を維持したとしても、株主の過半数はタイ人であるものの取締役は全員日本人としたり、タイ人に保有してもらう株式については議決権の劣後株として実際の議決権の過半数は日本企業側が保有したりすることで、実質的に日本企業側が経営権を握る余地を残すことになり、タイ国内企業の保護を一つの目的とする同法の趣旨に沿った実態にならない場合が生じ得ます。
この状況を解消すべく、『国際基準に準拠した形での外国人の定義の見直しを行う』として、以下のような企業を外国企業とするよう、外国人の定義の見直しが提案されている模様です。
- 取締役の過半数が外国人で占められている
- 取締役会決議や議決権において、外国人が会社の重大な決定権を有する
Q:現在の定義に基づいてタイで非外国企業として事業を行っているが、定義が見直された場合には外国企業と解される企業への影響はあるのでしょうか。
A:まず、前段の外国人の定義見直しについては、既存の企業については遡及適用しない旨が明言されていますので、その点は安心できるかと思われます。他方、違法な『名義貸し』に対しては罰則を強化する旨も明示されており、実際の運用がどのようになるのかは不透明です。
Q:この改正がなされることは、確定なのでしょうか。
A:少なくとも公表されている情報の範囲では、『外国人事業法』の改正は関係者からのヒアリングを開始した『検討段階』であり、改正案の草稿も未作成であるとされています。また、諸外国もすでに同法の改正に関しては懸念を表明しており、関係者間の調整も容易ではないものと思われます。
一方で、同法の改正の動きは今回に始まったものではなく、現政権は同様に長年の検討事項であった相続税・贈与税についても迅速に議論を進めた経緯もありますので、今後の動向が注目されるところです。
2015年1月