タイ版 会計・税務・法務
【第107回】 税法改正と移転価格税制/BEPSについて(その4)
Q:本社の経理部門から最近BEPS対策という言葉をよく聞くのですが、これはどのようなものでしょうか?
A:移転価格にかかわる本項目も4回目となりますが、最後に近年の動きとしてBEPSについて述べさせていただきます。これまで移転価格税制について概略を述べさせていただきましたが、このコンセプトはどちらかというと“二国間”における利益の移転を問題とするものであったとも言えます。したがって、二国間での利益配分の調整を行う手段として、租税条約をベースとした事前協議制度(Advance Pricing Arrangement:関連する二国の税務当局の間で、国を跨いだ取引価格の水準について、事前に確認をとる制度です)が準備されてきたのも、そうした枠組みのなかで考えられます。
このように関税制度等とは異なって、租税条約についてモデル二国間租税条約はあっても、多国間租税条約というものは存在していませんでした。一方で、特に米国大手多国籍企業(スターバックス、グーグル、アップルが有名ですが)が行った節税方式というのが、従来の二国間租税条約と移転価格税制では防ぎきれない一種の利益移転を行い、結果として利益を生み出している国での課税がまったくできない(例:米国で実態として利益をあげているにもかかわらず、米国でほとんど税金を払っていない)という事態が見られるようになりました。
こうした、一種の合法であっても不合理な節税に対抗すべく、これまでの二国間コンセプトを一新したのが、OECDが主導のもと多国間租税協定として2017年に署名された“BEPS防止のための租税条約関連措置の実施に係る多国間協定”(いわゆるBEPS国際協定)です。ここで、BEPSという耳慣れない言葉がでてきますが、これは“Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転”の略語で、上述の「(合法的に)利益移転が行われ、結果として利益を生み出している国での課税がまったくできない」ということを表しています。この協定はそうしたBEPS行為を防ぐために「多国間」で共通の対策をとるという点で、歴史的協定であると言われています。また、日本は、この協定の最初の署名国であるとともに、税法もBEPS対策プログラムに沿って、改正が行われてきています。
この、日本におけるBEPS防止、特に「文書化」と呼ばれる対策の概要は、①対象が一定規模以上の多国籍企業が対象、②対象企業の取引の全容把握を行うこと、をベースとしており、それをもとに対象国間で税務情報の共有を行って利益移転を防止することを目標にしています。この対策にそって、2016年1月1日以後開始事業年度において、対象企業グループ親会社では、税務署に海外取引関連資料を提出が行われており、その影響で海外子会社においても、こうした税務関連の報告が必要となってきています。
なお、タイもOECDにおける「BEPS Inclusive Framework」に昨年参加 しており、多国籍企業に対するBEPS防止対策ネットワークに加わっていくものと考えられます。今後は、大きな流れとして、多国籍企業における高度な節税対策については多国間協定であるBEPSで対応し、それ以外の利益移転については、移転価格税制等の整備により防止するといった国際的な流れの影響がタイにおいても出てくることが予想され、企業グループとして国内外で整合性のとれた対策が必要になってくるといえましょう。
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
著者プロフィール
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
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